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国際問題コラム「世界の鼓動」

マラソン審議でシリア爆撃にお墨付き

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

12月2日、英国下院でシリア国内のISISに対する空爆を行うべきかどうかの審議と投票が行われ、キャメロン政府が提案した空爆賛成案が「賛成397:反対223」で可決されたことは日本のメディアでもそこそこ伝えられましたよね。審議が始まったのが午前11時半、終わったのが午後10時だったから、ほぼ12時間にわたるマラソン審議だった。審議の一部始終は、ここをクリックすると動画で、ここをクリックすると文字で見ることができます。

まずキャメロン政府の提案の背景を簡単に紹介しておきます。現在、ISISはイラクとシリアにまたがる部分を自分たちの領土として占領しており、アメリカやフランスを中心とする「有志国」による空爆が行われている。英国はこれまでISISの占領地域のうちイラク領の部分は「有志国」と一緒になって空爆してきていますが、シリア領については、アサド政権の打倒を目指して米仏軍に協力して、2013年に空爆しようとしたときに国民の反対によって断念しています。キャメロンが今回提案したのは、シリア領にかかるISISの占領地域です。ただ「ISISの領土」と言っても、国際的に認められた国境があるわけではないのだから、実際にはシリア領の爆撃ということになる。つまり2013年に断念したものを蒸し返すというわけです。

審議開始前に議長(写真右)が議事の進め方などについて説明する場面があるのですが、その中でちょっと可笑しかったのは、「本日は157人もの議員から質問をしたいという要望が来ております。私としては全員が質問できるように最善を尽くすつもりでおりますが、議事の最中に私のところへ来て、自分が当てられるかどうかを聞き出そうとするのは止めてください」とクギを刺している部分です。キャメロンが空爆賛成の趣旨説明をしている間にも議員からの「質問」によってストップされるような場面が度々あったのですが、見ている限りにおいてはそれも英国議会では当たり前のことのようであります。いずれにしても157人もの議員が「質問」という形の発言をするのだから、一人1分としてもそれだけで2時間をはるかに超えてしまう。12時間審議も仕方ないということであります。

むささびの独断と偏見により、発言のいくつかをピックアップして紹介してみます。どれもポイント部分だけを書き出したものです。


デイビッド・キャメロン首相:ISISに攻撃されるのを待つのですか?
ここで議論するのは、我々がテロと戦うことを望むかどうかということではありません。どう戦うのが一番いいのかということであります。我々が問わなければならないのは、同盟国とともにこの(ISISという)脅威を退け、これを破壊し、テロリストたちを彼らの領内において追い詰めるのか、それともただ黙って彼らが我々を攻撃してくるのを待つのかということです。彼らは英国民を殺そうと企んでいるのですよ。
  • ここでのキーワードは「同盟国とともに・・・」という部分だと思います。”do we work with our allies…” と言っている。「同盟国ともに仕事をする」ということですが、むささびの解釈によると「置いてきぼりを食うことへの不安感」を掻き立てようとしている。

[反対]
ジェレミー・コービン労働党党首:異なる意見にも敬意を払って
我々はいま英国の兵士(男も女も)を危険にさらし、ほぼ不可避的に罪のない人びとを死に追いやることの決定をしようとしているのです。責任は重大です。その決定を下すに当たっては、正しい選択についての異なった意見を持っている人間に対して最大限の真摯さと敬意が払われなければなりません。
  • この審議が行われる前の日に保守党の議員と会合を開いたキャメロンが、空爆に反対するコービン党首や労働党議員のことを「テロリストの同調者」(terrorist sympathisers)と呼んだことが判明してメディアの間で問題視された。審議の中でも労働党議員がキャメロンに対して謝罪を迫る部分がかなりあったけれど、ほとんど無視されていました。ただこの失言によってキャメロンへの批判がかなり強まったこともあり、素直に謝ってしまえばよかったのに・・・という感じです。

[賛成]
ヒラリー・ベン労働党議員(影の外相):悪と戦おう
我々は今こそこの悪に立ち向かわなければなりません。今こそシリアにおいて我々の役割を果たすべき時であります。従って私は我が党の仲間たちに、この政府提案に賛成票を投じるように呼びかけるものであります。
  • 「影の外相」(Shadow Foreign Secretary)だから、コービン党首にとっては右腕のような存在です。その人物が公然と保守党の空爆に賛成したのだから、大いに話題になった発言ではあったわけです。
[反対]
ジュリアン・ルイス保守党議員(下院防衛委員会委員長)
信頼できる地上軍がいない 
信頼するに足る地上軍もなしに空爆を行うことには反対します。効果がないし危険でもあるからです。2013年に私はアサド政権のシリアへの爆撃にも反対しました。ここでシリアを爆撃するということは、2年前には内戦の一方を爆撃することを望み、いまもう一方の側を爆撃しようとしていることになるのですよ。英国政府には戦略というものがないと言っているのと同じです。
  • 「信頼できる地上軍がいない」というのはキャメロンにとっては最大のアキレス腱と言われています。シリア国内で、しかも反アサド勢力による地上軍をどうやって組織するのか?
[賛成]
アラン・ダンカン保守党議員:傍観者であってはならない
我々の同盟国は、英国は助けを必要とした時に頼りになる国なのかどうかを問うています。新しい国連決議が出ているいま、英国がこれまで同様に傍観者であり続けることを選択するということは、英国が(この戦いから)引き下がることを世界に向かって表明するのと同じであります。英国は国際舞台から引退するような道を歩んではなりません。
  • 要するに米仏が戦争をしているときに英国が何もしないなどということは、とても耐えられない、というのがこの保守党議員の感覚のようです。
2015年12月14日 up date

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