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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
国際サッカー連盟(FIFA)の不正疑惑について、5月30日付のThe Economistが社説で論じており、
アメリカ司法当局が国境を越えて行動すると、その熱意が行き過ぎたり、捜査方法も横柄にすぎたりするものであるが、今度ばかりは世界中のサッカーファンの感謝に値するものになっている。
American extraterritorial jurisdiction is often excessive in its zeal and overbearing in its methods, but in this instance it deserves the gratitude of football fans everywhere.
というわけで、FIFAに対する怒りを爆発させています。書いてある内容は、日本のメディアでも報じられているものなので、あえて繰り返しませんが、記事の中で使われている言葉にあまり聞いたことがない激烈なものが見られるのが可笑しい気がします。
まず今年で79才になる会長のセップ・ブラッター氏については “ineffably complacent”(筆舌に尽くしがたいほど傲慢)であると言っている。”complacent” という言葉をむささびは(他に適当な日本語が浮かばないので)「傲慢」と書いたけれど、相手を見下したり、自分の能力を過大評価するという”arrogant” とはちょっとニュアンスが違うのですね。”complacent”は自分の置かれた立場や能力について「それを維持するための特別な努力は必要ない」と考えてしまうことです。「能天気」というニュアンスも含んだ「傲慢」です。ブラッター氏はそういう心理状態にある、と。
FIFAの組織ぐるみの不正(systemic corruption)は、2022年のワールドカップがカタールで開催されることが決まった際に取りざたされたけれど、そのカタールについては “tiny, bakingly hot Qatar”(ちっぽけなのに焼き尽くされるような暑いカタール)と言っている。”bakingly hot”などはにくい表現でありますね。でも、一つの国について “tiny”(ちっぽけ)というのは失礼なのでは?いずれにしてもカタールでの開催決定にあたって異を唱えた関係者については
FIFAを批判する者は往生際の悪い負け組か人種差別主義者として退けられた。
Critics of FIFA are dismissed as bad losers and racists.
ここでは “bad losers” を押さえておきましょう(受験勉強のようですが!)。good losersだと「潔く負けを認める人たち」ということになる。つまりFIFAに対して「恐れ入谷の鬼子母神(恐れ入りましたという意味)」と素直にアタマをさげなかった人たちってことです。
The Economistによると、このような状況においてさえもFIFAが自らを改革する意思があるかどうかは確証がないけれど、まずやるべきなのはブラッター会長を辞めさせて(結局再選された)、2018年(ロシア)と2022年(カタール)のワールドカップの開催を再検討することができるような人物にすげ替えることだとして、今回も何事もなく済ませるようなことがあれば、FIFA以外の組織や企業が行動を起こすときだと言っている。すなわちヨーロッパ・サッカー連盟(UEFA)がFIFAを脱退し、FIFA主催のワールドカップにはUEFAに所属する選手は参加させないようにすること。さらにヨーロッパの放送局は放映権の申請を拒否すること、FIFAの財布を膨らませることに貢献してきたスポンサー企業(Adidas, Coca-Cola, Visa and Hyundaiなど)はFIFAとの関係を続けることが自社のブランドイメージにとって非常に危険であるを自覚すること・・・などと主張したうえで
これまでFIFAから漂ってくる悪臭に対して関係者は鼻をつまむ程度のことしかしてこなかった。しかしいまやその選択肢はなくなったと言っていい。
Until now the stench from FIFA has prompted people to do nothing more than hold their noses. That is no longer an option.
“hold their noses” は鼻をつまむことですが、この場合は「くさいものに蓋をする」という意味であります。