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国際問題コラム「世界の鼓動」

AA会議に感じた世界の新潮流

アフリカに向け強化されるインドネシア外交

上記ジョコウィ演説を受けて、「インドネシアが親中の姿勢を打ち出したと見るのは早計」、という「じゃかるた新聞」田村隼哉記者の見方(4/27付け同紙)に同感である。ジョコウィ演説に盛り込まれている国連改革に関するインドネシア提案には、国連安保常任理事国の拒否権廃止等、中国もその一角を占める常任理事国の既得権に切り込む要素が含まれていて、当該演説には中国にとっても耳の痛い部分があった。争点によっては日本寄り、別のテーマでは中国寄りであったりしながら、全体として日中双方にバランスをとっていくインドネシア外交の伝統ともいえる「中立主義」の基本姿勢は変わらない。

またジョコウィ政権がやにわに対日強硬姿勢に転じたわけでもない。AA会議60周年記念首脳会議の直前に、大統領自らが日本、中国を訪問し、二カ国関係の強化を図ったことからも、対日政策の転換を想起するのは過剰反応というものであろう。

ここで今一度AA会議60周年記念首脳会議の性格を確認しておきたい。

今回の会議の基本テーマとして掲げられていたのは、「世界の平和と繁栄を推進するための南南協力」である。「南南協力」、すなわちこの会議の主体は「南側」の国々なのであり、日本は、アジアの一員であるが、先進国G7のメンバーであって「南側」に属しておらず、AA会議では微妙な立ち位置にある。

世論を味方につける卓越した政治家センスをもつジョコウィ大統領、そして演説の起草に関わったみられるルフット大統領首席補佐官、レトノ外務大臣らがまず考えたのは、大統領が語る「場」とはどのようなところなのか、そこで「誰」に向かって、「何」を訴えるのかという点だろう。

日本では日中首脳会談があるのか否かに注目が集まったAA会議60周年記念首脳会議であるが、この会議の基本性格は、アジア・アフリカの「南側」諸国が結束を図る場であるということだ。実は「南南協力」といっても、今日の東アジア経済発展や中国、インド、インドネシアといった新興国の台頭は、「南側」諸国の中においても経済格差を現出させ、「持たざる国」の団結という図式は描きにくくなっている。

であるからこそインドネシアは、AA会議では「持たざる国(南)」の声を代弁して、「持てる国(北)」に向かって強くモノ申す姿勢を示すことで、「持たざる国」との連帯を確認し、彼らの支持を獲得する政治的必要性があったのだ。

さらに経済的な思惑もあったのではないか、と思われる。今回の首脳会談を主催したインドネシア側の舞台裏を垣間見せる寄稿が、「ジャカルタ・ポスト」紙(4/22付け)に掲載されていた。「アジア・アフリカ間のネットワーク:インドネシアにとってアフリカが意味するものは何か」と題し、寄稿者はインドネシア外務省に勤務するサンディ・ダルモスマルト氏。

この寄稿によれば、2月にジャカルタで開催されたインドネシア在外公館長会議に出席したジョコウィ大統領は、「経済外交を強化せよ。そのためにアジア・アフリカのネットワークを活かせ」と檄をとばした。「経済外交の強化」が意味するところは、「マイナスの貿易収支を反転させ、天然資源以外のインドネシア産品の外国市場への浸透を図り、かつインドネシアから海外への投資を拡大させる」ことが、インドネシア外交の優先事項であるというのだ。インドネシアの非石油産品輸出はアフリカを中心に急拡大していることから、寄稿者はジョコウィ大統領の指令を現実に即したものだ、と述べている。

首脳会談に先立ち4月21日に、大統領出席の下にインドネシア商工会議所は、「アジア・アフリカ・ビジネスサミット」を開催し、民間ベースの「南南協力」を推進するために「アジア・アフリカ・ビジネス評議会」の新設を発表した。同評議会は、インドネシアと南アフリカに事務所を開設し、両地域の貿易や投資を促進する、としている。このビジネス・サミットでは、サハラ砂漠以南の地域のGDPが2005年6500億ドルだったのが、2014年には1兆6000億ドルに急成長していることが報告され、新興国インドネシア企業の目がアフリカに向かいつつあることを感じさせる。

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2015年5月5日 up date

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