NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

AA会議に感じた世界の新潮流

賛助会員 小川 忠

(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)

スディルマン将軍通りさる4月22日~23日、アジア・アフリカ会議(AA会議)60周年記念首脳会議がジャカルタで開催された。この期間中「AA」ロゴの旗が目抜き通りの「スディルマン将軍通り」に溢れ(写真)、夥しい幟が風にたなびく風景からもこの会議にかけたインドネシア政府の鼻息の荒さがうかがえる。

新興国としての自信を深めるインドネシアは、アジア・アフリカ109カ国の首脳・閣僚、25の国際機関代表を招待し、90カ国以上の首脳・閣僚等が参加した。この中には日本の安倍首相、中国の習近平国家主席も含まれており、両者による日中首脳会談も行われ、世界の耳目が集まったのは報道でご存じの通りである。

ところで、ここジャカルタにあって、「おやっ」と違和感を覚えた報道が現地メディアに流れたのだが、これについて日本のメディアはさらっと受け流し、こだわりをみせなかった印象をもつ。

 インドネシア大統領が発したきつい批判

何に違和感をもったかといえば、AA会議60周年記念首脳会議の冒頭でインドネシアのジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領が行った演説である。これは異例の演説であり、意外な言説でもあった。

概してインドネシア指導者たちの雄弁は端倪すべからざるものがあるが、中でもジョコウィ大統領はソーシャルメディアを活用した説得の名手として知られている。彼は正しく自らが発する言葉の力によって、地方から中央へと政治の階段を駆け上り、大統領の座を射とめたと言ってよい。彼が人びとを魅了したのは、昔ながらのネガティブ・キャンペーンをくり出す政敵たちとは違う、普通のひとびとの向上心、勤労意欲を鼓舞し、前に向かって一歩踏み出そうという気にさせる、肯定的・建設的な、彼の言葉をかりれば「精神革命」を予感させるものだったからだ。

ところが、AA会議60周年記念首脳会議の彼の演説は、前進への呼びかけよりも先進国や国際機関への否定的・批判的言辞が前面に出たものであった。「ジャカルタ・ポスト」紙(4/23)に演説英文テキストが掲載されているので、気になったくだりを少し長くなるが、以下に邦訳しておく。

今日私たちが〔60年前のAA会議に参加した先人から〕継承した世界は、不正義、不平等、そしてグローバルな暴力に満ち溢れている。公正・平等・繁栄に基づく新世界文明、新国際秩序は未だ実現に至っていない。

グローバルな不正義、不平等は強固にはびこっている。世界人口の20%を占める富める諸国が世界資源の70%を消費していることからも理解できる通り、世界の不平等は誰に目にも明らかである。北側の富豪たち数百人が奢侈を極めた生活を享受する一方で、南側の12億人は12ドル以下の収入という貧困のなかで為す術なく暮らしており、世界の不平等はますます悪化している。

富裕国グループが、その権力をもって世界を動かすことができると考え、国連はこうした状況に無力であることから、国際的不平等はより悲惨な結果をもたらすことになろう。国連の委任なく行われた近年の戦争・暴力行為は、諸国家を全て包含する機関〔国連〕の存在を意味のないものにしてしまった。

それゆえにアジア・アフリカ諸国は、国連が全ての諸国民のための正義を優先する世界組織として適切に機能するよう、国連改革を要求する。

(「パレスチナ国家」独立を求める部分 省略)

 国際的不平等が存在するのは、ある一部の国家群が世界の変化を認めるのを拒否していることからも明らかだ。世銀、国際通貨基金、アジア開発銀行を通じてのみ、世界の経済問題は解決できるという見方は、もはや時代遅れである。私の見解を述べさせていただくなら、世界経済の運営管理を、これら三つの国際金融機関のみに任せることはできない。

新国際経済秩序を構築する必要がある。それは全ての新興経済勢力に開かれたものでなければならない。私たちは、国際金融構造の改革を進め、特定の国家グループが他の諸国を服従させるような状況を解消しなければならない。今日、世界は力をあわせた国際的な指導力を必要としている。その指導力は、公正で透明性の高いものであらねばならない。

新興経済国であり、世界最大のイスラム教徒人口を擁し、世界第三の規模の民主主義国家であるインドネシアは、世界の平和と繁栄のために積極的にその役割を果たしていく所存である。

明言は避けているが、ジョコウィ大統領が批判する「富める諸国」のなかに日本が含まれていることは明らかだ。国際金融機関批判のくだりは、中国が主導する(そして日米が警戒する)アジアインフラ投資銀行(AIIB)へのインドネシア側の期待を示すものであろう。

こうした相当に辛口の言葉について、今日の世界に不公正・不平等が存在するのは同感であり、これを変えるための努力を国際社会とともに進めていかねばならないと思うが、少なからぬ権限と影響力をもつ一国の指導者が、自らをたなにあげて一方的に他国を批判するのは、あまり生産的とはいえない。インドネシア国内でもあまり受けは良くないようで、「先進国を批判する前に、インドネシア国内の貧富格差、不平等の解消に取り組むべきだ」といった批判が、新聞投書欄に掲載されていた。あまり説得力をもつといえない言辞を、なぜジョコウィ大統領はあえて日本の首相や国際機関代表の面前で発したのか。この発言の背景にあるのは何だろうか。

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2015年5月5日 up date

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