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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
2月27日付のProspect誌のサイトに
Jihadi John – a brand not a man
ジハディー・ジョンはブランドであって人間ではない
というエッセイが出ています。ジハディー・ジョンはイスラム国が人質をとったときに、必ずナイフを持って動画に出演して殺しのメッセージのようなものを告げる、あの人物で、最近その正体が明らかにされましたよね。Prospect誌にエッセイを寄稿したのはマアジッド・ナワズ(Maajid Nawaz)という英国の社会活動家なのですが、この人自身、かつてはイスラム過激派としての活動を行っていたけれど最近では、極端な過激思想(extremism)に走る組織に反対するQuilliamというNPOを立ち上げて活動しています。
ジハディー・ジョンと呼ばれている人物が「クエート出身のロンドン在住者で、名前をモハメッド・エムワジ(Mohammed Emwazi)」ということで明らかになったことで、英国メディアが大騒ぎしており、正体が分かっただけで何やらほっとしたような気分があることは事実なのですが、マアジッド・ナワズによると、実はこの人物の正体が明らかになり、その生い立ちなどが詳しく知られたとしても、あまり意味のあることではない。なぜなら「ジハディー・ジョン」はあくまでも「ブランドであって人間ではない」(a brand not a man)からだ、というのです。
「ブランドであって人間ではない」という言葉の意味は、モハメッド・エムワジという名前のクエート人は実在する生身の人間かもしれないけれど、「ジハディー・ジョン」はイスラム国による「聖なる戦い」のシンボルであるということです。オバマさんや安倍さんが言うように、この男を捕まえて「罪の償い」をさせたとしても次なるジハディー・ジョンが出てくることは間違いない。あのオサマ・ビン・ラディンが殺されてアメリカ人は欣喜雀躍であったかもしれないけれど、彼が体現したアルカイダのような発想そのものは全く死んでいなかったことでもそれが分かるではないかというわけです。マアジッド・ナワズが言うのは「ジハディー・ジョンによって体現される過激思想の根っこを絶やすことが重要」(it is important to extinguish the root causes of extremism)ということです。
どのようにすれば、イスラム国を支える過激思想を根絶やしにできるのか?という問題になると、マアジッド・ナワズも抽象的にならざるを得ないようなのです。彼が強調するのは教師の役割で、若者たちに対して自由、他者への寛容さ、民主主義などの価値観をしっかり主張することだと言います。またコミュニティ・レベルではさまざまな宗教グループが社会と一体化できるような支援を行うことも挙げられている。
このような取り組みによって過激主義の存在を減らすことができるし、近い将来においてはモハメッド・エムワジのような過激派への参加の呼びかけに対してはっきりしたビジョンをもって「ノー」と言えるようになるだろう。
These measures should greatly reduce the existence of extremism and in the nearer future, at least give potential recruits to extremist groups, such as Mohammed Emwazi was, the clarity of vision to say “no.”
とナワズは言っています。
英国におけるイスラム教の人口は2011年現在で約280万人だったのですが、2001年における人口が155万人であったことを考えると10年間で130万人の増加ということになる。さらに特徴的なのは年齢が若いことで、イスラム人口の3分の1が15才以下となっています。また英国における宗教人口の内訳はキリスト教徒が59.5%で一番多いのは当たり前なのですが、無宗教というのが25.7%とけっこういる。そしてイスラム教は4.4%でヒンズー教徒(1.3%)よりもはるかに多く、存在感を示しています。