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国際問題コラム「世界の鼓動」

人質殺害:日本はどこへ向かうのか?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

イスラム国の日本人人質事件に関連して、むささびが目にした英国メディアの記事の中から3つほど紹介します。いずれもこの事件が日本や日本人に与える影響について語っています。

2月1日付のGuardianはジャスティン・マカリー記者(東京特派員のようです)が「この殺人によって日本が目指している海外における大きな役割という発想が岐路に立たされている」(Killings leave Japan’s pursuit of bigger foreign role at the crossroads)と伝えています。

イスラム国による二人の日本人のショッキングな死の結果、安倍晋三氏は自らが掲げる「積極的平和主義」をやりすぎると国民の支持を失うリスクを負うことになった。

Shinzo Abe could risk public support if he pushes too far with his ‘proactive pacifism’ after the shocking deaths of two Japanese at the hands of Isis

というわけです。
オークランド大学(ニュージーランド)のマーク・マリンズ(Mark Mullins)教授(日本研究)は

この悲劇は、憲法第9条の解釈改憲をして自衛隊の海外派遣を進めようとする安倍氏の決意をより固いものにすることになるだろう。

I suspect this tragedy will strengthen Abe’s resolve to push ahead with his reinterpretation of article 9 and plans to extend the military capabilities of the self-defence forces overseas.

とコメントしているし、マカリー記者も後藤氏の死に対する日本人の拒否反応の強さを見るとそのような方向に進む可能性はあると感じている。ただマカリー記者は、一方でテンプル大学のジェフ・キングトン氏(アジア研究)の

国民は安倍氏の安全保障に関する考え方には深い疑問を持っているし、反イスラム国勢力への参加についても慎重だ。

But the public has deep misgivings about his security agenda and the evident risks of joining the anti-Isis forces.

という見方も紹介しています。

次にFinancial Timesのコラムニスト、デイビッド・ピリング(David Pilling)は、後藤さんの死が伝えられる3日前の1月28日付のサイトに「日本の外交政策の分岐点」(A tipping point for Japan’s foreign policy)というエッセイを寄稿しています。

ピリングのメッセージは

経済的な影響力が薄れるにつれて、中立という幻想を持ち続けることが難しくなる

The illusion of neutrality becomes harder to pull off as economic clout wanes

ということ。日本がかつて維持していた外交姿勢である「全方位外交」(omnidirectional diplomacy)は、別の言い方をすると

みんなのお友だちのようなふりをしながら経済的な利益を追求し、防衛のような面倒なことはアメリカ任せ

pretending to be everyone’s friend while pursuing its own economic interests. Meanwhile, the nasty business of defending Japan has been outsourced to the US.

というものだった。それはそれでうまくいった時期もあった。1973年の石油危機に際してはアメリカの対イスラエル政策からは距離をとってアラブの友だちという姿勢をとることができた。しかし9・11テロとそれに続くアフガニスタン、イラクの戦争、さらには中国の台頭・・・という具合に世界が刻々と変化する中で岡本行夫氏のいわゆる「みせかけの中立」(camouflaged neutrality)を維持することはますます困難になっている。自国民が外国で囚われの身になっているのに自国軍がこれを救助に行くことができないのは日本ぐらいのものだ、というわけです。

しかしピリングの見るところによると、多くの日本人は今回の人質事件を「外国のトラブルに巻き込まれることの危険性」(perils of being sucked into foreign adventures)を示したと考えている。安倍首相が反イスラム国支援のために2億ドルの人道援助を表明したことについても「イスラム原理主義という闘牛の前で真っ赤なラグを振り回したようなもの」(a red rag to the fundamentalist bull)と批判する向きもある。

というわけで、中国による領土に関する主張は厳しさを増すばかりだし、アメリカは本当には日本を守ってはくれないし、中東の石油なしには生きられないし・・・

日本が塀の上に座っていられる時代は終わりつつある

For Tokyo, the days of sitting on the fence are ending.

とピリングの記事は言っている。

そして三つ目の記事がThe Economistのブログ欄(2月2日)に出ていた「苦い結末」(The bitter end)という記事です。

この記事によると、イスラム国による人質殺害予告が行われた1月20日、安倍さんができることは極めて限られていることが明らかになった。すなわち日本は情報収集能力(intelligence capability)が決定的に欠けており、二人の人質がどこにいるのかも分からないし、イスラム国と直接連絡することもできない、平和憲法のおかげで軍隊が救助に行くこともできない、身代金を払えばアメリカを怒らせる・・・にっちもさっちもいかない。

二人の人質があのような残酷な最期を迎えたことで、日本国民の孤立主義的な傾向がますます強まって、平和主義をかなぐり捨てようという安倍氏の夢の実現の邪魔をする可能性がある。多数の日本人は安倍氏の安全保障上の変更に否定的であり、これを変えることはますます困難になったのではないか。

The two hostages’ grisly fate could further entrench the public’s isolationist tendency, hindering Mr Abe’s dream of ditching pacifism altogether. A majority of Japanese are already opposed to his impending security changes. Convincing them otherwise probably just got harder still.

というのがThe Economistの記事の見方です。

2015年2月9日 up date

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