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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
英国で暮らすアメリカ人の友人によると、彼女個人にとって2016年の大統領選挙は憂鬱なものになるとのことであります。むささびと似たような年齢の彼女は民主党の活動家でもある。2016年の選挙がなぜ憂鬱なのかというと、民主党の候補者がヒラリー・クリントンになる可能性が高いとささやかれているから。なぜヒラリーではダメなのかについては後ほど述べるとして、彼女がオバマの後継者として支持しているのはエリザベス・ウォレン(Elizabeth Warren)という上院議員であり、ヒラリーではない。
普段アメリカのメディアをほとんど読まないむささびにとっては「エリザベス・ウォレンって誰ですか?」という感じなのですが、ウィキペディア情報によると、エリザベス・ウォレンは1949年生まれの65才だからヒラリーより二つ年下、昨年マサチューセッツ州選出上院議員となった人で、「ハーバード・ロー・スクールで教鞭をとり、積極的な消費者保護論者」と書かれている。
雑誌New Yorkerの12月15日付のサイトに
エリザベス・ウォレンはなぜ大統領選に立候補しないのか?
というエッセイが出ています。書いたのはジョン・カシディ(John Cassidy)という政治記者なのですが、書き出しは次のようになっている。
このマサチューセッツ州選出上院議員は大統領選には立候補しないと言っている。しかしだからと言って本当に立候補しないということにはならない。
The Massachusetts Senator says that she isn’t running for President?but that doesn’t mean that she won’t.
現在のところ民主党にはリーダーとされる人物が3人いる。一人はオバマ大統領だが彼は大統領の任期終えると同時に民主党のリーダーでもなくなる。二番目はもちろんヒラリー・クリントン、体制的後継者としてはナンバーワンの存在。そしてカシディによると三番目がエリザベス・ウォレンということになる。
3人のうち最もブレないメッセージを送り続けてリベラル派の活動家たちを最も熱狂させているのは、疑いもなくウォレンである。彼女にはウォール街を中心とする金融業界に反対して戦う姿勢があり、これが一般受けに繋がっている。
Of the three, there’s no doubt who is conveying the most consistent message and generating the most enthusiasm among liberal activists: it’s Warren, with her populist crusade against Wall Street and moneyed interests.
カシディによると、金融業界がワシントンに送り込んできたさまざまなロビイストによる業界への便宜提供のリクエストに対して常に懐疑的な意見をはき、強硬な姿勢で臨んでいたのがウォレン上院議員であり、銀行筋が後押しした法案にも反対の意見を述べて対決姿勢を明らかにすることが多かった。彼女の主張の全てが通ったわけではないものの政治家としての評価は大いに高まっており、主要メディアはもちろんのことネットメディアの間でもヒーローになっている。
ウォレンの生まれはオクラホマ州のオクラホマ・シティ。スタインベックの『怒りの葡萄』に出てくる、アメリカの労働者階級をイメージさせる州です。ヒラリーがイリノイ州シカゴ生まれであるのとはちょっとニュアンスが違う。父親はビルの掃除人をやっていたけれど、エリザベスが12才のときに心臓麻痺で倒れ、彼女は13才でメキシコ料理店でウェイトレスとして働いて・・・とくると、どうしたって企業経営者の娘として生まれたヒラリーとは違うということになりますよね。ボストン・グローブ紙はウォレンのことを
人を食いものにする金貸したち、ほとんど規制されない銀行によって(生活を)滅茶苦茶にされた人びとの声、理解しやすい声
“… the plainspoken voice of people getting crushed by so many predatory lenders and under regulated banks.”
と形容しており、タイム誌は「ウォール街のシェリフ」と呼んだりしている。またカシディ記者もウォレン議員は「中流階級が直面する経済的な苦境を自身の経験で知っている」(Elizabeth learned first-hand about the economic pressures facing middle class families)と言っている。
それにしても私の友人である在英国・民主党員はヒラリー・クリントンの何がダメだというのでしょうか?一つには彼女では共和党に勝てないからだと言います。なぜ?それは彼女があまりにも長い間、夫とともにホワイトハウスにいすぎたおかげで、いろいろと芳しからぬ噂も取りざたされたりして「スキャンダル好きのメディア」(mud-slinging media)にとって格好のネタにされてしまうということだそうです。
ただ彼女はもっと本質的な部分でヒラリーには乗り気でない。ちょっと長いけれど彼女のコメントを紹介します。
ヒラリーは(政治という)ゲームのやり方は知っているであろうが、問題によっては彼女のモラルがどうなっているのか分からない部分がある。彼女はイラク戦争を支持したし、普通の人よりウォール街の金融関係者を支持している。正しい人物とは思えないわけ。私は彼女を疑っているし、彼女がアメリカに変革をもたらすような新しいものを持ってくるとは思えない。アメリカは変わることを必要としている・・・つまり私が彼女に投票することはないということ。
She knows how to play the game but I doubt her moral stance on some issues. She was in favour of war in Iraq, she supported Wall street financiers rather than the common man, and she just doesn’t feel right to me. I doubt her and do not trust her to bring anything new to the table that will change America – and it needs changing, that means I will not vote for her.
彼女(私の友人)がエリザベス・ウォレンを支持するのは、彼女が「もの事がどうあるべきか」(how things should be)という「ビジョン」(vision)を語っているからだと言います。彼女はオバマにもそれを感じたのだそうで、「ビジョンこそが国を前進させる」(it is vision that can lead a country forward)と言っています。