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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
社会問題を人びとの意識を通じて研究するアメリカのピュー・リサーチ(Pew Research)については、むささびでも何度か取り上げてきましたが、最近(10月30日)の発表の中でThe Economistなどが注目したものに43カ国の人びとを対象にした生活満足度(Life Satisfaction)についての調査結果があります。詳細についてはここをクリックすると見ることができるのですが、最も顕著な傾向を一言でいうと
生活満足度の点では新興経済国の国民が先進経済国の人びとの意識に追いつきつつある。
People in Emerging Markets Catch Up to Advanced
となります。ここでいう「先進経済国」とは欧米、日本、韓国など10カ国であり、「新興経済国」には中国、ベトナム、インドネシアなどのアジア諸国、メキシコ、ブラジルなど南米、それにロシアやエジプトなど全部で24カ国、さらに発展途上国としてエルサルバドル、ケニア、バングラデッシュなどの9カ国が調査対象になっています。調査期間は今年の3月から6月、対象となった人数は合計で約4万8000人です。
「生活満足度」という、どちらかというと個人的な感覚の領域に入るのではないかと思われる事柄をどのようにして数値化したのか?ピュー・リサーチでは、調査対象となった一人一人に自分の生活レベルを低い順から0~10の段階に分け現在どの地点にいるかを質問し、7~10と答えた人びとを「満足度が高い生活」を送っていると想定したのだそうです。そしてそれぞれの国にそのようなレベルの意識を持った人びとが何パーセント程度いるのかを調べて比較したわけです。それが上のグラフなのですが、2007年と2014年を比べるとそれぞれ次のように変化していることが分かる。
先進国(advanced economies):57%から54%に下がっている。
新興国(emerging markets):33%から51%へ上昇している。
発展途上国(developing economies):16%から28%へ上昇。
満足度が高い人の割合が、2007年の時点では先進国と新興国の間の差が24ポイントもあったのに、2014年ではこれが3ポイントにまで縮小しているのが目立ちます。最近の新興国の経済がやや停滞気味であり、かつて囁かれたような先進国との「合流」(convergence)の可能性が遠くなったと言われているけれど、そうは言っても新興国の人びとは満足度が高いとThe Economistは言っている。
それぞれのグループを詳細に見ると、先進国の中で人びとの満足度ナンバーワンはイスラエルの75%、次いで米(65%)、独(60%)、英(55%)となっており、日本は10カ国中で9位の43%、最下位はギリシャの37%となっています。ただこれらの数字を7年前(2007年)のものと比較すると、ドイツは47→60=+13と最も大きな伸びとなっている。2位はイスラエルの69→75、3位が日本で41→43でいずれもプラス傾向になっているのですが、スペインが66→54と12ポイントも下がっている。
先進国では2007年との比較でドイツとスペインが極端な増減を示しているけれど、そのほかの国は大して変わらないという数字が出ているのに対して、ドラマチックとも言えるのが新興国でトップ5がいずれも20%以上の増加となっています。
インドネシア | 23→58%(+35) |
中国 | 33→59%(+26) |
パキスタン | 19→51%(+22) |
マレーシア | 36→56%(+20) |
ロシア | 23→43%(+20) |
インドネシアや中国、マレーシアではほぼ6割の人が「7年前に比べると生活が良くなった」と感じているということで、それ自体すごいことですが、そのように感じている人の数の増え方を見ると、特にアジアの新興国の人びとの生活水準が実感として劇的に上昇しているということが分かります。
ピュー・リサーチでは、そのほか、それぞれの国について一般的な傾向として
などが言えるとしています。