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国際問題コラム「世界の鼓動」

スコットランド独立:怖がらせ作戦が始まった

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

スコットランド独立の動きについては、これまでにも何度か(215号227号281号)お話してきました。今年9月18日にスコットランドで国民投票が行われることになっているのですが、今回はこの件について対照的な記事をを二つ紹介します。一つは2月22日付のThe Economistに出ていたもの、もう一つは2月18日付のGuardianに掲載されていたものです。

まずはThe Economistですが、申し訳ないけれど笑ってしまうのは

本誌はスコットランドが英国を去るべきかどうかは、ひとえにスコットランド人自身が決めるべき問題だと信じている。

This newspaper believes it is entirely up to Scots to decide whether their country should leave the United Kingdom.

と「断言」しておきながら、記事の中身は独立について悲観的なことばかり羅列したものになっていることです。例えばスコットランドは独立後もポンドを使用するために英国と通貨同盟(currency union)を結ぶことを考えているのですが、これについては現政権のオズボーン大蔵大臣が否定的な見解を示したのに続いて保守・労働・自民の主要三党の党首も同じスタンスであることを表明している。次にスコットランドは独立後にEUへ加盟することを考えているのですが、これについては欧州委員会のバローゾ委員長が「ほとんど不可能」(almost impossible)と発言したりしている。

さらに独立後のスコットランド経済にとって生命線とも言われる北海油田については

独立後のスコットランドは最初のうちは財政的にやっていけるかもしれないが、人口の高齢化が進み、北海の石油やガスが枯渇すると急速な財政悪化に見舞われるであろう。

An independent Scotland might be able to pay its way at first, but its finances will deteriorate sharply as its people age and the North Sea runs out of oil and gas.

という具合です。国家財政を石油や天然ガスからの収入に頼ると、国際的なエネルギー価格の高騰や低下によって国家収入の急激な増減が避けられない。そうなると手厚い社会福祉を保とうとするスコットランド経済は長続きするはずがない・・・要するにスコットランドの独立なんて夢のまた夢であるというのがThe Economistの意見です。

一方、2月18日付のGuardianに掲載されたエッセイは、スコットランドのジャーナリスト、アンガス・ロクスバラ(Angus Roxburgh)が寄稿したもので、国民投票が迫る中で英国による「怖がらせ作戦」(scare tactics)が始まっている、と批判しています。

独立したスコットランドのEU加盟は難しいというバローゾ欧州委員長の発言については

EUは、40年間もEUの加盟国であった国を追放しようというのですか?スコットランドではEUの法律がすべて国内法に取り込まれているのですよ?そんな国を追放しようものならスコットランドのみならずEU加盟国全体が大混乱に陥るのですよ。それでもスコットランドを追放するのですか、バロ-ゾさん!

Why, Mr Baroso, would the EU expel a country that has been a member for 40 years, and which has already transposed all EU legislation into Scottish law, knowing that this would cause utter havoc – not just for Scotland, but for all the other member states?

と疑問を呈し、ポンドを使う通貨同盟に反対するオズボーン大蔵大臣に対しては

スコットランドと英国が同じ通貨を使う方が英国の産業界の利益になるというのにこれを拒否するのですか?

Why, Mr Osborne, would you refuse to share a currency when it would be in the interests of British business to do so?

と言っている。産業界にとっていちばん困るのは、独立後のスコットランドとの間において関税や不必要な貿易障壁ができてしまうことであり、同じ通貨を使うことでそのようなことを最小限に抑えることができるではないか、それに反対するということは2012年のエディンバラ合意の精神に反するものだというわけです。エディンバラ合意というのは、国民投票で独立派が勝利してスコットランドが独立する場合でもお互いに平和的な別離を目指して話し合おうというものだった。

スコットランドのEU加盟が難しいという議論については、もし独立スコットランドがEU加盟国でなくなるとなると、例えばスコットランドの領海内におけるEU加盟国の漁業が不可能になり、EUの水産業界にとっては壊滅的な打撃になる、EU域内で暮らすスコットランド人やスコットランドで暮らすEU市民の法的な立場が全く異なってくる、輸出入についての関税ができる・・・さまざまな障害が出てくる。さらにスコットランドが独立するということは、現在の「英国」の人口が500万程度減るということを意味する。そうなるとEUの予算配分も含め、「英国」の立場にも変更が出て来ざるを得ない。どれをとってもスコットランドをEUから締め出すことから来る混乱はタイヘンなものになるというわけで、バローゾ委員長の発言を真面目にとるわけにはいかない。

怖がらせ遊びはいい加減に止めて現実を受け止めようではないか。すなわちスコットランド人が民主的な手続きを経て独立を選択した場合は、EU、「英国」、そして世界のあらゆる機構・機関がそれを受容するということであり、独立実現に向けて努力するということである。そのことはスコットランドのみならず皆のためにもなるのだ。誰も我々(スコットランド)を締め出すようなことはしないだろう。

Let’s quit the scaremongering, and accept one thing: if the Scots democratically choose independence, then Brussels, London, and all global institutions will accept this and work to make it happen. Not for Scotland’s sake, but for their own. No one is going to throw us out.

というのがロクスバラ記者の結論です。

2014年4月8日 up date

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