NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

トニー・ベンの死

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

英国の政治家、トニー・ベン(Tony Benn)が亡くなったことは日本のメディアでは伝えられましたっけ?3月14日のことで、サッチャーさんが亡くなったときほどの大騒ぎではなかったけれど、英国ではメディアというメディアが「追悼」報道をしていました。1925年生まれだから88才で亡くなったことになる。この人の死がなぜそれほど話題になるのかというと、1950年の初当選から2001年の引退まで労働党の議員であったのですが、ほぼ常に党内左派の筆頭的存在であったということです。

生前のトニー・ベンの語録の中からいくつか抜粋すると:

自分自身の政治哲学について

My mother once said to me that all decisions, including political decisions, are basically moral. Is it right or wrong? 

母親に言われたことがある。あらゆる決定(政治的なものも含む)の根拠となるのは道徳だ。正しいのか間違っているのか?ということ。

 

社会主義について

We are paying a heavy political price for 20 years in which, as a party, we have played down our criticism of capitalism and soft-pedalled our advocacy of socialism. 

我々(労働党)は過去20年間、資本主義批判を鈍らせると同時に社会主義の推進については柔らかすぎた。

 

資本主義と不平等について

The real division in society is between those who create the wealth by working and those who own the wealth. Those who own the wealth have far too much power and they use it to control those who create the wealth.

本当の社会的分断は、富を創造する者と富を所有する者の間に存在するのだ。富を所有する者が余りにも強大な権力をも所有して、富を創造する人間を支配しようとするものなのだ。

 

トニー・ブレアと新労働党について

To be embarrassed by socialism was very much a characteristic of New Labour.

社会主義を恥ずかしいと思うのが新労働党の性格だ。

 

戦争について

All war represents a failure of diplomacy. I opposed the Suez war, I opposed the Falklands war. I opposed the Libyan bombing and I opposed the Gulf war, and I never believed that any of those principled arguments lost a single vote – indeed, I think they gained support, though that was not why you did it.

戦争というものは例外なく外交の失敗の結果として起こるのだ。私はスエズ戦争、フォークランド戦争、リビア爆撃、湾岸戦争などに反対した。理念のある主張が投票で敗れることは絶対にないと思っていたし、実際にはそれが支持を集めたのだ。票が欲しくて理念のある主張をしたわけではないけれど。

 

イラク戦争について

Undoubtedly the war with Iraq was a tragedy. I think it was also a crime. 

イラク戦争が悲劇であることは疑いの余地がないが、私はあれは犯罪だったとも思っている。

 

この中でも(むささびが)興味深いと思うのは「トニー・ブレアと新労働党について」ですね。ブレアの政権が誕生したのは1997年。1979年のサッチャー政権の誕生から1997年までの18年間、ずっと保守党政権が続いていた。その一つの理由とされたのが、労働党内の左右分裂です。ブレアが党首になって、それまで社会民主主義にこだわっていた労働党の針路を大きく右にとった。それが功を奏して労働党が大勝、2010年の選挙で敗れるまで13年間、労働党政権が続いたわけです。

ブレアたちは彼らが変革した労働党のことを新労働党(New Labour)と呼んだのですが、右寄りになったおかげで保守党と大して変わらない政党になってしまった。サッチャーの経済政策を取り入れることによって、選挙には勝ったかもしれないけれど、労働党の本来の支持者は離れて行き、それが英国政治に対する一般的な政治的無関心にも繋がっていった(とベンは言っている)。

2014年3月25日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ