NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

中国の20代と政治

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

Dissentというアメリカの雑誌(季刊)に中国の若者の政治意識についてのエッセイが載っています。昨年(2013年)の春号で、書いたのはアレック・アッシュ(Alec Ash)という在北京のアメリカのジャーナリスト。彼が見た中国の20代の若者と政治というテーマで報告しているのですが、非常に長い記事なので、エッセンスのみ紹介します。

中国の若者は全般的に政治には無関心のように見えるのですが、それには次の4つの理由がある、とアレック・アッシュは考えている。

1)政治は退屈:Politics is boring
どの国でも普通の人が政治に関心を抱くのはメディアを通じてのことなのですが、筆者によると、中国における政治報道は結果(results)について伝えるが経過(process)は伝えない。政治指導者はほとんど誰が誰なのか見分けがつかない。義務教育の教科として「思想と政治」というのがあり、子供たちは学校で毛沢東について学び、江沢民の経済理論なるものについても学んでいるけれど、教科書はどれも退屈極まりないものであり、それが彼らを政治から遠ざける(put them off politics)のだと言います。

2)政治は危険:Politics is dangerous
中国のような一党独裁の国においては、人々は他人から後ろ指を指されることなく日々を過ごすために「言っていいこと・やっていいこと」(what you can say and do)を本能的に見分けるバロメータのようなものを体内に備えている。現代の中国には思想が強制されることはないし、文化大革命のときのように若者が親たちを糾弾するという場面もないのですが、彼らの親たちはそのような時代を生きてきている。そして子供たちに「政治には関わらない方がいい」(politics is best left alone)と教え込もうとする。

3)政治は優先事項ではない:Politics isn’t a priority
つまり政治は特権階級のもの。そんなことより、いい学校に入って、いい職場に就職して、いい嫁さん(旦那さん)を見つけて・・・どれをとっても競争が激しい。アパートも買いたいしクルマだって手に入れたい、親の面倒も見なければならない。そのためには稼がなきゃ、政治なんてやってられない。さらに気楽なセックス、遊びとしての麻薬、さらにはネットゲームのWorld of Warcraftもある。若者たちの間ではこの三つ以外のことはほとんどどうでもいいと考えられている。

4)政治には希望が持てない:Politics is hopeless
物事を変えるなんてことできっこない。できっこないことを何故やるんだ?変革を求めて署名活動をやったり、ビラを撒いたり、組織づくりをやったり・・・そんなことやってトラブルに巻き込まれても事態は何も変わりっこない。自己犠牲は美しいかもしれないけれどアホらしくもある(sacrifice is admirable but foolhardy)。どうなっても構わないというのではないし、何もやる気がないというわけでもない。ただ現実的であろうとしているだけ。

アレック・アッシュによると、中国では若い世代のことを「ポスト80年代」とか「ポスト90年代」という形容詞で呼ぶことがあるのだそうです。つまり開放経済が始まり、目覚ましい経済発展が続いている時代しか知らない世代ということです。世界中のどの国にもいる「いまどきの若い奴ら」です。この記事を書いたアメリカ人の筆者によると、北京では政治の話をするのは外国人であって中国人ではないのだそうですが、彼の知り合いの中国人女性(30代)にこのことを言ったところ、次のような言葉が返ってきたのだそうです。

民主主義の国に生まれた人々なら、もっと政治のハナシをするでしょうね。なぜならそのような権利をもって生まれているのだから。我々はそうではありません。だからそのことについては考えないのです。ほとんどの若者にとって、政治は全く自分たちとは関係がない。彼らが興味を持つのは自分の利益に関係することだけ。それ以上のことについては、どうでもいいのですよ。

People born in a democratic country talk about this more because they are born with that right. We aren’t, so we don’t think about it. For most young Chinese politics doesn’t have anything to do with them. It’s what affects them that interests them. [Beyond] that level they don’t care.

もちろん過激な若者もいて、政府が「日本の厚かましさ」(Japanese presumption)や中国に対する偏見に満ちた西側メディアに対して弱腰であることを見ると怒りをぶつけたりするのですが、20代の若者の大半は「法の支配」を望む穏健派であり、民主主義については「考え方」(concept)としては認めるのですが、統治システムとしてこれを推進する気にはならない。例えば複数政党制は非現実的と考えるのが普通です。何故なら有権者の大半が教育不足であり、複数政党による選挙などやろうものなら金銭による票の買収が相次いでしまうから。革命は何が起こるか分からないから歓迎しない。筆者によると、こうした心理の底を流れるのは「混乱することへの恐怖心」(beneath it all runs the fear of chaos)であるとのことであります。

2014年1月14日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ