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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
日本では特別秘密保護法なるものが成立したばかりですが、公文書の保存期間というのはどのくらいなのでありましょうか?英国には情報公開法(Freedom of Information Act)というのがあって、政府(地方自治体も含め)の公文書は作成後30年で一般公開されなければならないとなっており、今年からこれを20年に短縮する作業が始まっています。むささびジャーナル280号で、米ソの冷戦がもう少しで本当の核戦争を誘発するところだったというお話をしましたよね。1983年のことだった。この話は核兵器廃棄運動を続けている英国のNPOが、情報公開法に基づいて今年(2013年)30年前の政府の秘密文書などの公開請求をした結果出てきたものだった。
1983年の核戦争の危機は英国も含めたNATO軍による軍事演習によってもたらされたものだったのですが、その軍事演習の一環として、本当に核戦争が始まったことを想定して、エリザベス女王が国民に対して団結を呼びかける演説を行うことになっていたのですね。これは情報公開法に基づいて1983年から30年後の今年(2013年)公開された文書で明らかになっているのですが、その「文書」というのが、女王の国民向けの演説の予定稿であったというわけです。
核戦争の始まりに際して英国の官僚が作成した悲壮な調子の草稿の全文はここをクリックすると読むことができますが、次の言葉で始まっています。
When I spoke to you less than three months ago we were all enjoying the warmth and fellowship of a family Christmas.
私が皆さまにお話したのは、いまから3か月前にもならないときでした。あのころ私たちはファミリー・クリスマスの暖かさと絆の強さのようなものを楽しんでいたのです。
ここでクリスマスが出てくるのは、想定によるとこの演説が行われるのは3月初旬となっていたからです。女王は、第二次世界大戦開始の際に彼女の父親(ジョージ6世)が国民向けに行った演説を幼稚園で聞いたときの悲しみや恐怖に触れながら
Not for a single moment did I imagine that this solemn and awful duty would one day fall to me.
まさか自分がこのような厳粛ではあるけれど厳しい義務を負わなければならなくなるなどとは考えたこともありませんでした。
と言います。そして次のような言葉で国民に団結を呼びかけます。
If families remain united and resolute, giving shelter to those living alone and unprotected, our country’s will to survive cannot be broken.
家族がそれぞれ団結し、固い決意をもって、独りで暮らしている人や身寄りのない人々にシェルターを提供するならば、私たちの国の生存への意志が崩れることは決してないでありましょう。
これ以後もさまざまな言葉で、「家族の絆」を大切にすると同時に、これをもてない人々に援助の手を差し伸べようと呼びかけ、次のような言葉で演説を終えることになっています。
As we strive together to fight off the new evil let us pray for our country and men of goodwill wherever they may be. God bless you all.
団結して新たなる悪との戦いを進める中で、私たちの国のために祈りましょう。善意の人々がどこに居ようと彼らのためにも祈りましょう。皆さますべてに神の祝福を。