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国際問題コラム「世界の鼓動」

5年半で競走馬1000頭が「処分」されている?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

Animal Aidという英国の動物愛護団体の監視によると、2007年から現在までの5年半で競走馬1000頭が競馬場で死亡したのだそうです。8月3日付のThe Observerが伝えています。競馬で骨折したりして走れなくなった馬が「処分」(destroy)されることはどこでもあり、厩舎まで連れ戻されて殺される場合と競馬場にいる間に処分される場合がある。Animal AidではDeath Watchというリストをサイト上に作って、競馬場で処分される馬をリストアップする作業を続けているのですが、2013年7月、ついにそれが1000頭の大台を超えてしまったというわけです。

馬の処分については国会でも問題になっており、英国競馬協会(British Horseracing Authority:BHA)が過去3年間の数字ということで確認した情報では、Animal Aidの記録よりも少しだけ大きくなっている。また英国調教師連盟(National Trainers Federation:NTF)によると、最近では競馬場でケガをした馬の処分はオーナーや調教師の依頼により競馬場で行われるケースの方が多くなっている。これを選択的安楽死(elective euthanasia)と呼ぶのですが、こうして死亡した馬についてはBHAの情報には入っていないのだそうです。

The Observerの記事によると、昨年(2012年)英国の競馬場で走った馬の数は約1万7500頭、そのうち38%にあたる6600頭が障害レース(jump racing)で走っている。Animal Aidによると、昨年一年間で157頭の障害レース参加馬が死亡している。つまり42頭に1頭が死亡したということになる。ただ、この数字はBHAによって強く否定されています。BHAによると、同じ馬が一年を通して何度も走っており、述べの数字に直すとおよそ9万頭が走ったことになり、死亡率は0.2%ということになる。またAnimal Aidのいわゆる「2007年からこれまでに1000頭」という数字については、同じ期間中に走った馬の数は約50万頭に上る(つまり死亡率は0.2%)のだと主張しています。

Animal Aidでは、競馬の監督官庁である環境・食糧・田園地帯省(Department for Environment, Food and Rural Affairs)に対して、BHAに競走馬の死亡に関する完全な情報を開示させるように指導するべきだという申し入れをしたりしている。

英国文化の中で馬は特別な地位にあるのだから、そのような国民的なディスカッションをすることは公共の利益に合致することになる。

Given the special place that horses have in British culture, such a national discussion would be very much in the public interest.

というわけですが、これに対してBHAは

競馬は常にリスクを伴うスポーツであり、英国の競馬は競技に伴う危険については常に正直かつオープンな姿勢でいる。

Racing is a sport that carries risk, and British racing is honest and open about the risks involved.

というわけで「何も隠していることなどない」(British racing has nothing to hide)と言っている。またAnimal Aidが問題にしている競馬場における「選択的安楽死」が増えていることについてはどうしても「処分」しなければならないような状態の場合は、獣医関連の設備が最も整っている競馬場こそが最善の場所だと言っています。

2013年8月12日 up date

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