NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

断食月にみるイスラムの多面性

消費が拡大する「禁欲月」 

 たとえば経済について考えたい。世の中には「イスラムが資本主義発達の障害になっている」という見方がある。その主張の根拠として、人間の欲望に対して禁欲的であること、貨幣の増殖や貸付の利子を禁止していること、資本の集中を禁止していること、土地の私的所有が制限されていることなどがある。

その一方で、こうした否定的な見解の裏返しとして、「イスラム経済」が反資本主義、反グローバリズムの立場から理想化して語られたりもする。近年では、欧米の長引く経済不況、その一方でのインドネシア、マレーシアや湾岸諸国のめざましい経済発展から「イスラム経済」を肯定する動きが強まっているようだ。

 ちなみにインドネシアは「イスラム経済」に立脚する国ではない。この国家の経済の基本原理は、欧米世界と同じ近代経済学に基づくものであり、国家経済を運用する政府や中央銀行のエリートたちの多くが、「バークレー・マフィア」と呼ばれてきたように欧米の有名大学経済学部に留学し、近代経済学を学び血肉化してきた人びとである。とはいえ、スハルト政権崩壊後にイスラム金融制度に対する法的整備も行われ、無利子の金融機関であるイスラム銀行の存在感は益々高まっている。

 ところでインドネシアのラマダーンを見ていると、イスラムは本当に資本主義の足をひっぱる宗教なのか、と考えてしまう。

 ラマダーンのなかば、今のインドネシア社会の雰囲気を伝える最も適当な言葉は、「日本のクリスマス・年末商戦のよう!」である。

 ラマダーン明けの大祭(レバランまたはイドゥル・フィトリと呼ばれる)は、日本の正月と同じく、多くのイスラム教徒は実家に戻って家族と共に大祭を祝う。そのために日本の盆、正月のような帰省ラッシュがこの時期に発生する。実家へのおみやげ、ハレの日のお祝いの食事、あらたまった席での着物、何かと物入りな季節なのだ。日用品の物価もこの時期に値上がりする。それゆえに労働大臣通達によって、日本の年末ボーナスのような「レバラン手当」が支給される。「レバラン手当」を支給された庶民は買物にくり出し、市場やデパートは大混雑だ。

 日本のクリスマス商戦がそうであるように、インドネシアでも女性購買者の心をいかにつかむかが、レバラン商戦の主戦場である。そして、これまた日本のクリスマス商戦がそうであるように、本来の宗教的な意味を離れて、若い女性にはいかにロマンティックな気分を売り込むか、主婦には家族団らんの時間をいかに演出するかが、レバラン商戦の勝敗の分かれ目になっている。まさに「日本のXmasのイスラム版」だ。

 つまりイスラムの教えに基づく禁欲の月に消費は拡大し、経済は活性化しているのだ。

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2013年7月26日 up date

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