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国際問題コラム「世界の鼓動」

インドネシア外交の新潮流

インドネシア・パブリック・ディプロマシーの基本的方向

 インドネシア政府において、パブリック・ディプロマシーを主に担っているのは、前出の観光・創造経済省のほかに外務省、教育文化省である。外務省にはそのものずばりパブリック・ディプロマシー局、教育文化省には評価・文化外交局が置かれている。観光・創造経済省が、輸出振興、雇用創出、海外資本誘致といった経済振興の観点から文化外交を展開するのに対して、外務省パブリック・ディプロマシー局は、内外世論に働きかける広報外交を中心に機能していると考えらえる。同省ウェブサイトを見ると、パブリック・ディプロマシー局の所管事項の第一に以下が規定されている。

 1.政治、安全保障、経済、開発、社会文化、その他分野での戦略的な諸問題に関して、インドネシア共和国外交を円滑に遂行するために、国内及び海外市民の支持を獲得することを目的とする政策の立案、検討。

 内外の世論からインドネシアはどのように思われていたいのか、インドネシア外交当局者にとって、あらまほしきインドネシア・イメージとは何か。それはすなわち、インドネシア国家が描く理想の自画像でもある。

 この問いに対する公式的な見解は、インドネシア外務省のウェブサイトには記載されていないが、他の場面でインドネシア外交官が語った言葉が参考になる。昨年レディ・ガガのジャカルタ公演がイスラム強硬派の反発で中止になった時に、ダルマンシャ・ジュマラ駐ポーランド大使がコンパス紙(2012/5/29)に寄稿している。

 同大使によれば、アジア経済危機を引き金に始まった98年の国内治安悪化、スハルト政権の崩壊、2002年のバリ爆弾テロ事件で悪化したインドネシアの対外イメージを改善させるために、インドネシア外交が重要視する三つのイメージがあるという。

 第一は、インドネシアが民主国家に生まれ変わった、というイメージ。イスラムは民主主義を受容できるのかという見方が欧米諸国にあるなかで、世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアが民主主義であることの国際影響力は大きい。

 第二には、インドネシアは穏健イスラムの国、というイメージ。米国同時多発テロ事件以降、欧米とイスラム諸国の対立が拡大するなかで、穏健なイスラムの国とみられることで、欧米とイスラム諸国の対話の橋渡し役を担うことが可能となる。

 第三には、インドネシアは多様な宗教、文化が共存する複合民族主義に基づく多様性に寛容な国、というイメージ。多数派であるイスラムが他宗教との共存を受けいれ、平和に調和のとれた社会生活を営んでいるというイメージは、国内治安の安定、国家統合の強固さを対外的にアピールするものといえる。

 インドネシアが、「民主的」「穏健」「寛容」という点について、国際社会から信頼を獲得していくためには、そうしたイメージを裏付ける行動をとらねばならない、従ってレディ・ガガ公演を中止に追い込んだイスラム強硬派の振る舞いは非難されるべき、というのがダルマンシャ・ジュマラ大使の主張だ。

 ユドヨノ大統領のパブリック・ディプロマシー認識を知る上で参考になる証言を見つけた。大統領側近である国際問題担当大統領補佐官補のアンドレ・オムル・シレガルが、3月8日ドバイに赴く大統領専用機の機内でユドヨノ大統領が行った講演について、ジャカルタ・ポスト紙(2013/3/28)に紹介している。

 「グローバル・ガバナンス、グローバル・パワーとダイナミックに変化する世界」と題するこの講演で、大統領はG2(米中)、G8、G20など大国による国際秩序について言及した後、「新しいグローバルな世界の変化において、非国家主体が、外交ゲームを変え、国際的な連帯を形成する担い手として台頭しつつある」と述べた。こうした自発的な市民の力が北アフリカ、中東において、雇用を求め、正義を求める大きな力となっていることを認め、インドネシアはこうした新しい国際社会の一員としての役割を担っていく覚悟を持ち、準備を進めていかねばならない、とその決意を語った。「インドネシアのやり方」で民主主義とイスラムの調和のあいだのモデルになる国をめざす、というのである。

 これは、インドネシア・パブリック・ディプロマシーの基本的方向性を示すものといえよう。

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2013年7月14日 up date

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