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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、
左派系のオピニオン・マガジン「ニュー・ステイツマン」(New Statesman)のサイト(6月5日付)に同誌のヘレン・ルイス(Helen Lewis)副編集長がWhy the world needs better loos(世界はトイレをもっと改善する必要がある)という見出しのエッセイを載せています。looはトイレのことです。「トイレを見ればその国が分かる」(If you want to know a country, look at its loos)というわけで、書き出しは次のようになっています。
私は2週間の日本訪問を終えて帰ってきたばかりなのであるが、滞日中、文句なしに素晴らしい電車、食べもの、そして靴下に熱狂するばかりであったけれど、なんと言っても最大の驚きは日本のトイレであったし、これは今も変わらない。
I’ve just returned from two weeks in Japan, and in between enthusing about its effortlessly superior trains, food and socks, my greatest level of wonder is still reserved for its toilets.
電車とか食べものが気に入ったというのは分かるけれど、「靴下」というのは何なのでしょうか?多分男である私が知らないだけで、女性なら分かるのでしょう。日本のソックスは素晴らしいものなのでしょうか?ソックスのことはともかくこの人は日本のトイレ事情に大感激して帰国したようなのであります。
第一にすごいのは、神聖なる神社だろうが、深山幽谷だろうがいたるところにladies’(女性用トイレ)があり、広島の宮島にある弥山 (みせん)に登ったときには、「現在工事中で頂上のトイレが使えません」という看板が少なくとも3つはあったのだそうです。
第二の驚きはどのトイレもピカピカにきれい(spotless)であったこと。この人によると英国の公衆トイレはとにかく「汚い」(grubby)のだそうですが、日本の公衆トイレは「私のキッチンよりきれい」(cleaner than my kitchen)で紙もたっぷりある。しかも英国の公衆トイレは少し破くと切れ目が入っており、充分な紙が使えないようになっているのに対して日本のそれは利用者を信用してか、ちゃんとしたロールが使われている。
そして最後にかの有名な「ハイテク便器」というわけです。ウォシュレットだの温かい便座だのというあれですが、この人の観察によると、日本人はセントラルヒーティングには熱心でないのに便座が温まっている・・・不思議だと言っています。
日本における公衆トイレの充実ぶりを称賛しているのは、この人だけではないようで、英国下院が2008年に発表した「公衆トイレの整備について」(The Provision of Public Toilets)という報告書が東アジアにおける公衆トイレ事情について触れて次のように記述しています。
日本は(東アジアにおける)トイレ革命の中心にある。地理的な意味できわめて広範囲にわたって整備されており、用を足す場所の数という意味からして2対1で女性が優遇されている。
Japan is at the centre of the restroom revolution. Standards as to geographical distribution of toilet provision are very high, and ratios of 2:1 in favour of women are to be found in terms of numbers of places to pee.
この報告書によると英国で最初に公衆トイレができたのは1852年、ロンドンのFleet Streetというところだったそうです。そもそも英国内にある公衆トイレの数がはっきりしていないのですが、不動産の価値査定を行うValuation Office Agencyという政府機関が「課税対象になる価値のあるトイレ」(toilets with a rateable value)として挙げているものだけを数えるならば、2000年に5,410個所だったものが2008年には4,423個所にまで減っているとのことであります。1936年公衆衛生法(Public Health Act 1936)によって地方自治体に公衆トイレを作る権限が与えられたのですが、トイレの整備を地方自治体の義務としなかった(it imposes no duty to do so)ことが整備の不徹底を招いたとしています。