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国際問題コラム「世界の鼓動」

尖閣領有権に「棚上げ」はあったか?

鄧が日本で記者会見を行った14年後の1992年4月、中国は国内法である「領海および隣接区域法」を一方的に制定し、尖閣諸島を突如自国の領土に編入した。これに対し、日本は直ちに抗議した。このことだけから見ても、もし棚上げで日中間に合意があったのなら、国内法で一方的に中国の領土と位置付けたことは論理的矛盾もはなはだしいことになる。棚上げ論をいうなら、まず「領海および隣接区域法」を改正ないし廃棄してからにしてほしい、と中国側に主張する必要がある。

中国は、尖閣諸島は「古代以来中国のもの」、とか「明・清の時代の古文書の中に島の記述がある、島に名前を付けた」などとも言うが、これは多分に朝貢、冊封時代の「華夷秩序」に基づく考え方であり、近代国際法のルールには合わない。この論法で言えば、台湾は俗称「フォルモサ」(美麗島)と呼ばれるが、この名前はこの島に命名したポルトガル語Illia Formosa(イリア・フォルモサ「美しい島」)からきているので、台湾はポルトガル領ということになってしまうだろう。

また、このような中華思想的発想を広げていけば、沖縄(琉球)は、昔、日本と中国の両方に朝貢していた時期があったので、「沖縄は中国の一部」という議論に容易に結びつくだろう。現に、中国としては沖縄に関しても領有権を主張することが出来る、と某中国高官が最近語ったとの報道があった。その後、本年5月に入り、「人民日報」系紙「環球時報」は、その社説のなかで、沖縄の地位は未決定である、との主張を行うに至った。

今日、尖閣諸島の領有権をめぐっては、台湾(中華民国)も明・清時代以来、中国領であったとして、中華人民共和国とほぼ同じような主張をしている。しかしながら、中国が日本に対抗するため、台湾(中華民国)に対し「連繋しよう」と呼び掛けたのに対し、台湾当局は中国とは「連繋しない」との公的声明を出した。(2013年2月)。

台湾当局にとっては、なによりも尖閣海域は台湾東海岸の漁民たちの漁業問題に直結している。90年代中ごろ以降、最近に至るまで、日台間で十数回の漁業交渉が行われてきたが、基本的には「中間線」を主張する日本と「伝統的漁場」を主張する台湾の主張は大きく隔たってきた。

これまで私は、日台間で、領有権と切り離して漁業交渉をまとめることができれば、日台関係はさらに大きく進展する可能性がある、と考えてきた。(それは、あくまでも切り離しであり、棚上げではない)。特に、台湾在勤中の2008年、台湾遊漁船と日本の海上保安庁巡視艇が尖閣領海内で接触し、台湾船が沈没した時には、台湾において一時的にせよ、強い反日的感情が表面化した。その時の苦い経験からも日台間における漁業問題の重要性と一日も早い解決の必要性を痛感してきた。

本年4月、日台間で周到な準備ののち、困難な漁業交渉についに一致点が見いだされ、取り決め締結に至った。これは日台関係および尖閣諸島に関連する一つの画期的進展と評することが出来る。もちろん、「台湾は中国の一部」と主張する中国がこの取り決めに反対したことは予想された通りである。台湾当局は引き続き尖閣諸島の領有権に関する独自の主張を行うだろうが、すくなくとも漁民たちからの当局に対する圧力は大幅に緩和することとなるだろう。また、米国が、日台間の合意達成を促進するために、台湾側に対して妥協を熱心によびかけたことは良く知られているところだ。

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2013年6月29日 up date

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