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国際問題コラム「世界の鼓動」

激化するシリア内戦とゴラン高原

筆者は当地に長く暮らす者であるが、ゴラン高原とヨルダン川西岸地区は同じ占領地域でありながら、それぞれの取り扱いに大きな差異があると強く実感している。ヨルダン川西岸の占領に係る諸問題(入植地や分離壁の存在等を含む)が、パレスチナ問題における中核を構成するとの認識が一般的にある一方、同じ占領地であるゴラン高原が、昨今の当地メディアや報道等において、同様の政治問題の一環として取り扱われることは、もはや稀である。それはあたかもゴラン高原は既にイスラエル領土の一部として定着したかのような印象であり、この感覚は実際にかの地に赴くと更に確実なものとなる。

ヨルダン川西岸では各要所に軍事検問所が設置され、イスラエル兵に厳しくチェックされる。被占領民が運転する車両にはイスラエル国内とは異なるナンバープレートが付され、これらのイスラエル側への入域は厳しく統制される。また、アラブ系市民の町や村の周囲には至るところに有刺鉄線及びコンクリートのフェンスが張り巡らされ、占領地域内の人・モノの移動さえも管理の対象となる。

これに対し、ゴラン高原ではまず、移動統制なるものが存在しない。入域に関しても物理的な障壁が存在しないため、占領を意識することすらない。67年の戦争当時を思い起こさせる地雷原が、一部地域で存在するものの、至るところに園芸農業、果樹園等、整然とした農地が展開する。これら農地ではワイン生産用の葡萄園が多く、世界的にも高い評価を得ている大手のワイナリーや、また家族ビジネスで成り立つ小規模ブティック・ワイナリー等が多数存在する。また、当地には国立公園が多く存在し、週末は家族連れの観光客で賑わう。特に夏季は学校のサマーキャンプや、課外活動の代表的な実施場所ともなっており、そこに通じる幹線道路は休日ともなると交通渋滞が頻発する。夏の酷暑が長い当地では、標高の高いゴラン高原は格好の避暑地でもある。つまり、ゴラン高原は国民の多くにとり、もはや政治的に不安定な地域ではなく、余暇を過ごすための観光地と化している。

今回のシリアの内戦がこの平和な高原の光景を一変させるほどの影響は見られず、過日、筆者が訪れた際にも、幹線道路は車列でごった返し、目と鼻の先で戦闘が繰り返されているとはとても思えない状況ではあった。

それでも、国連軍の大幅撤回はじめ、イスラエルに忍び寄る内戦の影は見逃せない。イスラエル政府は、北部の都市ハイファの主要病院などで、シリア側からの負傷者を受け入れ、ヨルダン国境への医療チームの派遣を検討し、国際世論に配慮した人道的措置も講じているが、ネタニヤフ首相は国連撤退に「国連はあてにならない」と発言し、緩衝地帯に空白が生まれることに重大な懸念を表明、北部方面の守備を更に増強する必要性を強調している。

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2013年6月24日 up date

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