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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、
6月4日付のBBCのサイトに
Why Finnish babies sleep in cardboard boxes
フィンランドの新生児が段ボール箱で眠る理由
という見出しの記事が出ていました。何のことかと思ったら、フィンランドにおける習慣として赤ちゃんが生まれると母親に子育てキットのような品々が入った段ボール箱が政府から贈られるというのがあるのだそうです。マタニティ・ボックスですね。知りませんでした。
BBCの記事によると、過去75年間続いている伝統であるとのことで、75年前(1938年)のフィンランドがどうなっていたのか、The History of Finlandというネットを調べてみたら、1937年に社会民主党と農民党の連立政権が誕生し、1939年~1940年にはソ連との間で戦争が起こっていました。1939年という年はヨーロッパにおける第二次世界大戦が始まった年であり、フィンランドは中立を宣言するのですが、ソ連軍が攻め込んできて「冬の戦争」に入り、大いに抵抗するも結局領土の10%をソ連に譲らざるを得なかった。段ボールのマタニティ・ボックスが始められたころのフィンランドは極めて苦しい状況にあったけれど、それだけに国民的団結心のようなものも強かったということかもしれないですね。
実は政府からの支給として、マタニティ・ボックスか140ユーロの現金かという選択肢があるのですが、統計によると95%のお母さんが「ボックス」を希望するのだそうです。中身が140ユーロ(約2万円)よりもはるかに価値があるモノであることが主なる理由だそうですが、例えばマットレス、寝袋、スノースーツ、ソックス、おむつ・・・記事に出ているだけでも30品は下らない。とても140ユーロでは揃えるのはムリ。しかもボックス自体がマットレスを敷いてベビーベッドにもなる。これを伝えるBBCの記者(女性)が
社会階級の如何を問わず、フィンランドでは多くの赤ちゃんが段ボールの安全な壁に囲まれて最初のおねんねををする。
Many children, from all social backgrounds, have their first naps within the safety of the box’s four cardboard walls.
と書いています。
マタニティ・ボックスの制度が始まった当初は、低所得家庭向けのサービスであったのですが、戦後になって全ての母親候補者に与えられるようになった。これをもらうためには妊娠4か月になる前に医者に行くか公立診療所に届けなければならないという法律ができた。それによって妊娠した女性が医者や看護婦の下で保護されることを奨励するための対策でもあったのだそうです。
1930年代のフィンランドは貧しくて乳児死亡率も1000人に65人とかなり高いものであったのですが、BBCの記事はヘルシンキにある国立健康・福祉研究所(National Institute for Health and Welfare)のMika Gissler教授の話として、乳児死亡率が低くなった背景の一つとしてこのボックスの存在もあるというコメントを紹介しています。