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同じ日のThe Guardianのサイトでコラムニストのサイモン・ジェンキンズ(Simon Jenkins)が、このような報道ぶりこそが事態をより悪くしていると批判しています。
ジェンキンズはまず、
テロリズムは「戦争」ということになっているが、戦争になったときに最初に考えねばならないのは、敵があなたのどのような行動を望んでいるかということだ。
The first question in any war – terrorism is allegedly a war – is to ask what the enemy most wants you to do.
と述べています。つまりどのような行動が敵を最も喜ばせるかということです。ジェンキンズによると、それは自分たちの主張をなるべく多くの人々に知ってもらうための「広報」であるということです。今回の場合、誰が撮影したのか、凶器を手に持った容疑者がその場に居合わせた市民のビデオカメラに向かって、犯罪の動機についてイラク戦争やアフガニスタン戦争に英国がかかわっていることを挙げ、「これはそのことへの仕返し((tit-for-tat)だ」と語りかけている。それがネット時代のいま、ツイッターなどを通じて瞬時に全世界に配信される。
実際のところ、英国やアメリカは無人の戦闘機を使ってアフガニスタン、パキスタン、イェメンなどでテロリストの殺戮活動を続けているわけですが、その際の犠牲者には民間人もいるはずです。しかしアフガニスタンやイェメンの村には、英米の無人機による殺戮を伝えるスマホを持った「市民ジャーナリスト」はいない。それならロンドンでやれば「市民ジャーナリスト」はわんさかいるから、自分たちの行動を全世界に流してくれる、と聖戦の戦闘員(jihadists)たちが考えても不思議はない。
案の定、今回の場合、英国のメディアが市民ジャーナリストの撮影した映像を大々的に使うことによって、ありふれた暴力事件にすぎないものが、政治性を持った地球規模の影響を与えるかもしれない大事件にされてしまった。あろうことかキャメロン首相などは海外休暇を切り上げて帰国、COBRAと呼ばれる「内閣危機対策本部」(Cabinet Office Briefing Room)まで開いてしまった。テロリストたちにしてみれば上出来な結果だった。
もちろんテロリストに利用されるからという理由でインターネットを閉鎖することは技術的に難しい(というより不可能である)わけですが、メディアや政治家には大騒ぎをしてテロリストたちにメガフォンを用意するようなことはしないという選択肢もあった。ジェンキンズによると、メディア、政治家、言論界の有名人、「専門家」と呼ばれる人々が一緒になって大騒ぎをして危機感を盛り立てることでテロリストのお手伝いをしてしまった。単なる殺人犯でも見る人が見ればヒーローにもなる。ただの暴力行為も政治的なディスカッションとからめると何やら意味のあるものに見えてきたりする。しかも・・・
危険なのは、そのような政治論議では、ときとしてテロリストたちが勝ってしまうことがあるということだ。
The danger is that this debate is one the terrorist might sometimes win.
とジェンキンズは言っています。