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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、
Financial Times(FT)のデイビッド・ピリング(David Pilling)記者によると、”アベノミクス”の起源は明治維新のころの日本政府の国策であった「富国強兵」(rich country, strong army)にあるのだそうであります。彼のエッセイ(5月8日)が言っています。
それまでは延々15年にも及ぶデフレ経済からの脱却なんて出来っこない、というのがメディアやお役人の間での一致した意見であったはず。なのに首相が安倍さんになった途端に「アベノミクスの下に全員集合!」となってしまった。何がどうなったんだ!?というのがこのエッセイのテーマです。そしてピリングによると
日本をよみがえらせたのは中国と津波後のスピリット(精神)である。
China and the post-tsunami spirit have revived Japan
ということになる。
津波後の日本では原発がすべて停止され、エネルギー危機が叫ばれて皆が省エネに向けて結集しようとしている一方で、産業界の方は円高と不安定なエネルギー事情、高すぎる法人税、貿易における外国との取決め不足等々に不安・不満を募らせており、
すべての産業が日本を脱出してしまうのではないかということが現実味を帯びた深刻な問題となった。
there were genuine questions about whether whole industries would decamp.
次なる要因は中国です。2010年に経済力で日本を追い抜き、尖閣問題ではますます主張を強め、安倍さんが自民党の総裁に選ばれるころには大規模な反日デモが中国国内で荒れ狂っていた。
日本が目的意識を持った指導者を持つことができたとしたら中国にこそ感謝しなければならないかもしれない。
If Japan has found a leader with a sense of purpose, it might have China to thank for it.
別の言い方をすると、中国の暴徒風反日デモが日本を「右傾化」させたということですが、安全保障面での不安と経済の弱体化・・・首相になった安倍さんには、明治の指導者が叫んだ「富国強兵」が大きな音となってアタマに響いたであろうというわけです。安倍さんが訪米した際にワシントンで”Japan is Back”という演説をしたのですが、そこで訴えたのが
日本は強くあらねばならない。まずは経済力で強くなり、そしてまた国防の面でも強くならねばならない。
Japan must stay strong, strong first in its economy, and strong also in its national defense.
ということだった。まさに”rich country, strong army”(富国強兵)宣言である、とピリング記者は言っている。
アベノミクスという「勇敢なる経済実験」(bold economic experiment)の背後にあるのは、強化された愛国心である(strengthened patriotism)とピリングは指摘、その例として4月28日の「主権回復の日」における「天皇陛下ばんざい」 を挙げて「天皇でさえあっけにとられた」(Even Emperor Akihito was taken aback)と言っている。
長期間にわたる漂流の後、日本は追い立てられるように猛烈なアクションを起こした。歴史というものが何らかの参考になるとすると、ひとたびコンセンサスが確立されると(日本という国は)20年間にも及ぶ足踏みの後にしては、思った以上に行動も素早くて目的意識もはっきりしているだろう。
After years of drift, Japan has been galvanised into action. If history is any guide, now that consensus has been reached, it will proceed faster and with more purpose than might be assumed after two decades of dithering.
例えばTPPへの加盟交渉に参加などということは、支持基盤である農業関係者の反対を考えると、これまでの自民党政権ではあり得ない。なのに安倍さんはやってしまった。その他エネルギーやヘルスケアの自由化、女性の労働市場への参加促進etc、これまでの日本では起こらないと考えられていた。が、
今の日本にはこれまでになかった危機感がある。(日本には出来っこないと考える)懐疑論者がびっくりすることになるかもしれない。
But there is a new urgency about Japan. Sceptics may be surprised.
とデイビッド・ピリングは言っています。