NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

偽装国家から脱皮

古庄 幸一(理事)

安倍新政権がスタートして5ヶ月が経過した。この間、新政権の機能を試すかの様にアルジェリア・イナメナスでの天然ガス関連施設が、武装テロに襲撃され、日本のプラント建設会社「日揮」の現地駐在員10名を含む多数の犠牲者が出た。新政権は限られた少ない情報の中で慎重によく対応したと思う。情報共有能力については政府内でも日本版のNSCが必要だとか、防衛駐在官増員の話も広がっている。しかしこれらは枝葉末節で本質ではない。今回のアルジェリアの様な事件が、今後も生起することが考えられる。その時世界中に展開している我が国の企業戦士の保護・救出は、他国にお願いするのでなく、相手国の了解のもと欧米主要国並に、邦人救出作戦を展開できる部隊を持つことである。そのための法整備を急ぐことこそ本質であろう。

安倍首相は昨年の選挙前に自衛隊の名称を国防軍に改めることを提唱した。ところがこれに対し社説で朝日新聞は「国防軍構想 自衛隊でなぜ悪い」、毎日新聞は「自民の『国防軍』名称変更の意図を疑う」との見出しで反対し厳しく批判した。自衛隊は憲法違反と言ってきた大手新聞が、憲法違反のまま自衛隊でいいと言っていることと同じだ。これもまた本質論を避けた偽装の上塗りではないか。我が国のメディアは国内法の不整備のため、自衛隊が平時に如何に何も出来ない組織かを知っていても書こうとしない。

陸・海・空自衛隊はこの20年間国外での任務が増大し、PKOや海賊対処等で諸外国軍隊と一緒に任務に就いている。4年前自衛隊に対しソマリア沖アデン湾での海賊対処作戦の準備命令が下令された時、社民党のT代議士と話す機会があった。T代議士曰く「そもそも世界の海軍が出て取り締るから、海賊も増えるのである。もっと相手と話し合いをすれば海賊はなくなる・・・」と。筆者は「Tさんお聞きしますが、ご自宅の玄関には鍵は当然掛けていませんよね。今の発言は、鍵を掛けるから泥棒が入ると言っているのと同じですね。平和憲法を護ると言うTさんの党の皆さんは、刑法のコピーをお守りの様に玄関に張っていますか」と聞いた。安保に関する非現実的な自説を固持し続けている政党と思ってみても情けない。

海上自衛隊の艦艇が外国の港に入港して艦上レセプションを実施している時に、「我々は日本国海上自衛隊(Japan Maritime Self Defense Force)であり、日本海軍(Japan Navy)ではない」といくら説明しても、ミサイルや魚雷・大砲を装備した艦上では納得してもらえないし、信頼も得られない。もう偽装は止めて、「平和憲法を守る」「専守防衛・非核三原則」という欺瞞から目覚め自衛隊は軍隊として自衛官を軍人と認める憲法にすべき時だと強く提言したい。軍事力の無い外交・政治には限界があることを国民に説明し、自国の主権・領土・領海は自分の手で守るとの教育をするチャンスだと思う。

東シナ海、尖閣列島周辺で、中国海軍艦艇による海上自衛隊艦艇への射撃管制レーダーの威嚇照射事案が起った。今回は日本政府も現場も毅然と対応しているが、最悪のシナリオを考えた場合、防衛出動が下令されることも考慮しなければならない。その時日本国憲法では自衛隊は軍隊ではない、自衛官は軍人ではないとして、隊員一人一人の国際法上の軍人としての権利は守られないことが生じはしないか。軍法会議が存在しないため、国内的にも自衛官の軍人としての人権は認められないことになる。戦う隊員達は自衛隊法の規定による服務の宣誓をして、国家に誠を奉げている。彼等は特別職の国家公務員との思いはなく、軍人として国民の負託に応えてくれると筆者は信じる。

偽装国家から脱皮するための法整備を一日も早く行い、隊員が胸を張って世界に出て行き、誇りを以って勤務できる環境が整う事を祈りたい。

寄港した港街の飲み屋で「お客さん職業は何ですか」と聞かれたとき、「私は日本海軍で今朝入港した軍艦〇〇の乗組員です」と躊躇なく言えるように。

 (この原稿は雑誌「美楽」で連載中の「羅針盤のない国」から転載した)

2013年5月15日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ