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2012年1月14日に実施された台湾の総統選挙において、現職・国民党の馬英九総統(得票率:51,6%)が最大野党・民進党の蔡英文主席(得票率:45,6%)を破り、再選を果たした。有権者の51%が変化よりも安定を望んだと言える。馬第一次政権は4年間に、対中宥和政策を取り、経済協力枠組み協定(ECFA)の締結、観光客や学術関係者の往来の自由化など、経済、人的往来の面で交流を促進した。
他方、民進党はもともと結成時に「台湾共和国」の独立綱領(1991年)を採択した政党であるが、蔡英文は、主権を守りつつも、独立を前面に打ち出すことなく、中国との対話路線を強調した。4年前の選挙において、馬英九が17%の差で圧勝したことと比較すれば、蔡英文の善戦は民進党の党勢回復ぶりを示すものになったと言うことが出来よう。
中国は選挙期間中、陰に陽に国民党の立場を支援し、もし政権交代が行われれば、中台間の安定的基盤が失われると警告し、独立指向の民進党を強く牽制した。選挙終盤になって、中国と取引のある大企業のCEOたちが、次々に国民党の主張を公然と支持したことは、有権者にかなりのインパクトを与えたにちがいない。さらに、中国は経済活動のため中国に滞在する台湾人ビジネスマンたちが、選挙の際に帰国し投票できるように、航空券を減額したりして、選挙に干渉した。このように、今次選挙において、中国はミサイルの発射こそしなかったが、経済(ビジネス)を「人質」に取った、といっても言い過ぎではないだろう。
中国の対台湾政策の核心は、今後とも台湾独立を阻止し、あわよくば、台湾を「第二の香港」(一国二制度)のような地位に持っていき、将来の統一への布石とすることである。この方針は鄧小平時代以来変わっていない。そのためには、今後、一層政治的、経済的攻勢を強め、台湾をさらに取り込む方策をとり続けるだろう。
馬英九総統は中国との関係では、今後とも「統一せず、独立せず、戦わず」の現状維持策を継続することを表明している。これまで4年間の対中国政策は、経済と人的往来を中心とするものであり、主権に関係しない比較的容易な分野に限られてきた。今後、中国からの政治、ないし軍事面での攻勢に如何に対応するか、二期目の馬政権の交渉能力の真価が問われることとなる。注目すべき点は、台湾人にとって、中国との政治問題討議がきわめて機微な問題であるということだ。馬英九が選挙期間中に、「再選されれば、中国との間で和平協定を結ぶことを考えたい」と発言し、これに対し、台湾内部で強い反発が起こり、支持率が10ポイントほど急落したことがある。その時、馬英九としては協定締結の前提条件として、住民投票にかけることなどの公約を行わざるを得なかった。
これからの中国は、最高指導部の交代期を迎え、経済成長が減速し、社会不安が強まる可能性がある。さらに、オバマ政権は1昨秋以来、米国の世界における戦略の重点をアジア太平洋に移すことを鮮明にした。これらの諸要因も今後の中台関係に大きな影響を及ぼすこととなろう。
日本と台湾との外交関係が断絶して40年以上になるが、今日、両者の関係は良好かつ緊密である。どのアンケートをとっても、今日、台湾の人たちの「一番好きな国」は日本である。台湾の一般市民からの東日本大震災への義援金は200億円という世界最大規模に達した。善意や同情は金額の多寡によって量られるべきものではない。とは言え、この動きは台湾の人々の日本への親近感や激励の気持ちを如実に傳えるものとなった。日本人との間に歴史的にも地理的にも深く長い絆を持つ「隣人たち」が存在するという事実を、私たちは忘れないようにしたいものである。