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池田 維(理事長)
「台湾はそのうち中国に呑み込まれてしまうのではないか」という質問を、ときおり受けることがある。最近の中国の強大化した経済力、軍事力を見ていると、ほぼ200キロの台湾海峡を隔てた台湾は如何にも小さく見え、中国にいずれ吸収・併呑されても不思議はないように思えてくるのだろう。そのような質問に対しては、私は「その可能性がないわけではないが、極めて小さいだろう」と答えることにしている。
台湾は面積こそ九州ほどであるが、2300万人の人口をもち、その経済規模(GDP)は世界のなかで20位前後である。そして、二十数年間の民主化の時期を経て、今日、自由で民主的な政治体制が定着した。地図を見れば明らかなように、台湾は東シナ海と南シナ海を扼する位置にある戦略上の要衝である。その帰趨は日本、米国を含む西太平洋全体のパワーバランスに重要な影響を及ぼすこととなる。また、台湾周辺海域は日本にとって石油輸送路であるシーレーンに当っている。
台湾のビジネスマンたちは、最大の貿易相手である中国を経済関係(ビジネス)の相手としては、重視している。しかしながら、38年間にわたった台湾の戒厳令下の警察国家(1949~87)を想起させるような中国の一党独裁体制には、台湾の人々は全く魅力を感じていない。
今日、中国大陸で生活する台湾のビジネスマンたちは、家族を含め約100万人にのぼると言われる。この人たちは、簡単な手続きで「中華民国」籍から「中華人民共和国」籍に切り換えることが出来るにもかかわらず、実際に国籍を変える人は皆無である。逆に、中国から台湾への来訪者は、この4年間でかなり増加したが、彼らは、台湾の選挙や政治を見て、その自由で民主的なところに衝撃を受け、羨望の念を持つのが普通である。
今日、各種アンケートが示すように、台湾住民の85%以上という圧倒的多数の人々は「独立」でも「統一」でもない「現状維持」を支持している。「現状維持」とは、端的に言えば、国連のメンバーではなく、国際的には孤立しているが、中国の統治下にはない、という台湾の現状の継続を意味している。もちろん、「現状維持」がいつまでも続くという保障はないが、台湾を取り囲む国際情勢、なかんずく、中国自体の状況が大きく変わるまでは、現状を維持する以外ない、と考えている台湾人は少なくない。
他方、中国は台湾を「核心的利益」を有する戦略上の重点地域とし、とくに、台湾独立への動きについては、武力行使も辞せず、との構えを見せている。(2005年 「反国家分裂法」を制定)。実際に、1996年、台湾で最初の総統直接選挙が行われ、李登輝氏が選出された際、中国は台湾近海に向けミサイルを発射し、台湾の住民を威嚇した。