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清本 修身(事務局)
長期に及ぶ軍政の暗いトンネルをようやく潜り抜け、民主化への新たな一歩を踏み出したミャンマーに、世界から熱い視線が注がれている。
その視線の背後にある思惑は、何より「ニューフロンティア」と、もてはやされている経済市場として魅力である。確かに6000千万以上の人口規模と豊富な資源をも持ち、大国インドや中国とも隣接する地理的位置は、経済的な戦略性を刺激する存在であることはうなずける。日本の経団連なども大型視察団を派遣し、求愛ムードを高めている。
それは十分理解できるし、進出は先駆けないと利は薄くなるというのもわかりきった理といえるのだろう。
しかしながら、思わぬ落とし穴がそこに潜む可能性があることにも少しは目配りしておくべきではないかと考えている。途上国への投資に伴う一般的なリスクはだれでも計算できるのは承知しているが、筆者の抱く心配は、利を求めるあまり、肝心の民主化プロセスを停滞させる副作用を生む可能性もあるのではという懸念である。もう少し、大胆に表現すれば、ミャンマー政権や社会に、腐敗構造を根付かせることになる危険性である。
むろん、勢いよく企業進出すれば、この国の経済潜在力に火が付き、雇用をはじめ数々の社会問題の解決に役立ち、新しい経済発展でより豊かな社会へと道を開くことは間違いない。それが大量の中産階級の創出をもたらし、一層民主化を後押しすることにもなるだろう。経済界の急接近に、ミャンマー政府の期待は大きい。歓迎もしている。
しかし、「世界の工場」として目覚ましい経済発展を遂げ、巨大な市場規模を誇る中国で頻発している、表面化したもの、しないものも含めた汚職事件がいかに社会の均衡発展を阻害し、危険な政治混乱の火種となっているかを凝視してほしい。もし、ミャンマーでもこういう構図の再現となったら、民主化が加速するどころか、政権が実力で社会混乱の制圧に乗り出すことになるかもしれない。そういう意味で、民主化が停滞し、最悪のシナリオを想定すれは、民主化の逆流さえを招くことになりかねない。
過日、我が国を訪問したこの国の民主化のシンボル的存在といえるアウン・サン・スー・チー女史は記者会見で、「ともかく国民のための投資をしてほしい。とりわけ若者が未来に希望を持てる社会建設に貢献してほしい」と強調していた。その願いは傾聴すべきだろう。民主化をさらに前進させるためにも必要であり、今後順調にこの国がその方向性をしっかりと固めていけば、それこそ、どの国の進出企業や投資にも最大の恩恵をもたらすはずである。