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エネルギーをめぐるこの苦難の歴史の中での、近年の大型ガス田の発見である。快哉の声が国内に上がるのは自然なことで、この国の安全保障戦略にも大きな影響を与え、変化が生まれつつあるのは当然だろう。ただし、その戦略は今のところ不透明である。新たに開発されたこの天然資源の用途に関する議論の意見が国内で大きく割れているからだ。
イスラエルでは、常に国家としての存亡が危機に晒されているとの観念から、周辺国、時には国際社会全体との緊張関係を緩和(若しくは逸らす)すべき、という問題意識が恒常的に存在する。特に右派政党リクード中心の現政権下では、新たに手にした天然ガスの輸出可能性をちらつかせることにより、周辺国、ひいては未だ外交関係を樹立していない国々との外交交渉を有利に進めたいという目論見がある。周辺地域の輸出先候補の筆頭には隣国のヨルダンや未だ占領が続くパレスチナ自治政府、昨今外交関係がギクシャクしているトルコや、騒乱終結後を見越したシリアさえも検討対象として含まれている。
つまり、輸出に回せる天然ガスの割合が多ければ多いほど交渉カードは多くなり、外交的には有利との見方があり、総産出量の何割までの輸出を政府として許可すべきかという議論となっている。現政権の閣僚レベルにおいては40%との見方が主流のようである。
これに対して、左派の労働党を主流とする野党勢力は真っ向から反対することが予想されている。野党勢力の主張は、国家資産としての天然資源は可能な限り長期に亘り温存することが適切であり、またその用途は国内需要に可能な限り留め、高騰する国内燃料費・電気代の抑制に努めるべき、というより大衆の期待に近い立場をとっている。
この議論の決着には今後相当の時間を要するものと予想されているが、この推移がどうなるにせよ、資源産出国としてのイスラエルの新たな地位が、同国を取り巻く地政学的状況に大きく影響することは間違いない。特に「アラブの春」以降の中東周辺地域の政治的激変にどう対応するかによって、その新しい外交の流れが決まってくるだろう。