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水谷 徹哉
(イスラエル在住、多様な危機管理研修を実施しているガリリー研究所所属)
イスラエル沿岸の地中海沖で、この数年来、相次いで天然ガス田の発見が続き、無資源国とされてきたこの国のエネルギー事情に多大な恩恵をもたらしている。同時に、それが国家の安保戦略の重大な地政学的変化にもつながろうとしている。
同地中海沖では1990年代後半以来、米国や英国の会社主導で天然ガス開発調査が続けられ、一定の埋蔵が確認されたあと、2005年には小規模鉱区ながら、商業生産が始まった。次いで2009年に劇的な転機が訪れた。米国の掘削会社とイスラエルの会社が北部の都市ハイファ沖80キロの海域で大規模鉱区を発見したのである。「Tamar」と称されるこの鉱区の推定埋蔵量は約2750億立米とされ、イスラエルのエネルギー需要を20-30年間にわたり保証する規模となった。ここでも生産は始まっている。
さらに翌2010年には同鉱区の西約50キロで、より大規模な「Laviathan」鉱区が発見され、この鉱区の推定埋蔵量は実に4500億立米と発表された。この鉱区はそれまでの過去10年に世界で発見された天然ガス田としては最大規模と評され、本格生産は2016年とされているが、これらの相次ぐ開発で、イスラエルは一躍資源国の地位を築くことになった。
これはイスラエルにとって歴史的なエネルギー革命である。1948年の建国以来、この若い国の歴史は、資源確保との戦いの歴史であった。まず、国の誕生が逆境そのものであった。独立宣言と同時に勃発した第一次中東戦争において、石油資源を潤沢に有する中東産油諸国のほぼ全てが敵側に回るという厳しい現実に直面する。これ以降も幾度となく周辺国との戦火を交えることになるが、アラブ連盟による貿易制限措置等も含め、これら主要産油国からのエネルギー調達は選択肢としては考えられないという前提条件が、長くイスラエル経済発展のボトルネックとなってきた。