NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

米国ソフトパワーの脆さと強さ

米国の対インドネシアPD基本戦略

イスラム文明の歴史に敬意を表し、イスラムとの対話とインドネシアへの親愛を語る効果的なアプローチでインドネシアにおける対米感情を急速に改善させたオバマ大統領であるが、インドネシアに向けた米国パブリック・ディプロマシー(PD)は現在、どのような意図をもって展開されており、直面する課題はいかなるものがあるのだろうか。

今年4月に米国国務省PD広報局リチャード・ステンゲル局長がインドネシアに出張し、政府高官や市民組織関係者と協議した。この協議のなかで、米・インドネシア当局者のあいだで、インターネット検閲や「情報の民主化」が話しあわれた。米国がどのような認識に基づいてこの協議にのぞんだか想像に難くない。
世界最大のイスラム大国であり、世界4位のフェイスブック市場であるインドネシアは、民主化、宗教の寛容、パワフルな経済発展と巨大市場、インターネット上の自由、文化的多様性という自画像を、世界に発信していこうとしている。こうした自己イメージを、インドネシアが積極的に対外発信していくのは、米国も大歓迎だ。アラブの春以来、米国が推進してきた中東の民主化が頓挫し、ISによる混乱が拡がるなかで、米国の指導力は低下している。
「イスラムであっても民主化は可能」「イスラムであっても経済発展は可能」であることを、世界最大のイスラム人口大国であるインドネシアが示してくれれば、米国の民主化推進外交は説得力を取り戻す。このような国際情勢認識に基づいて、先のジョコウィ訪米でも、「インドネシアは、権威主義の闇から立ち上がろうとしている地域の人々にとっての希望のモデル」と米国側は盛んに持ちあげた。
「イスラムと民主主義が共栄する国インドネシア」というPD強化をめざすジョコウィ政権を支援し、米国とインドネシアのパートナーシップを強固なものとしていくというのが、米国の基本戦略であろう。ステンゲルPD広報局長のインドネシア訪問から、そうした戦略が透けてみえる。

対インドネシアPDの重要な担い手の一つが、米国大使館に附属する広報文化センター「@america」である(写真)。@americaは「米国が実感できる21世紀型文化センター」として5年前に大型ショッピング・モール「パシフィック・プレイス」一角にオープンした。

@america @americaは最新の情報コミュニケーション技術が用いられており、こうしたデジタル情報技術を通じて、来館者は米国について調べ、文化に親しみ、交流できるように工夫されている。

先般お招きを受けて、@americaの開設5周年セレモニーに出席した。@americaのディスプレイは、我がジャカルタ日本文化センターよりもはるかにかっこいい。ITを活用した情報提供も我々の数年先を行っている。
でもくやしまぎれに言うわけではないが、@americaのきらびやかな施設と技術に比して、米国がこの国の人々に対してどういう対話をしたいのか、という心の部分について、@america ではあまり印象に残るものがなかった。最新鋭のテクノロジーを駆使していても、この国の人々と分かちあいたいものは何かが明確でないと、「心と心の触れあい」の感動はなく、施設のカッコよさと技術の高さに感嘆するのみの、ただのとおり一遍のつきあいで終わってしまう。

そして、一つの施設(ハコもの)が、広大なインドネシアで発しうる訴求力は限定的でしかない。

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2015年12月28日 up date

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