NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

多文化主義と同化主義の果てに

自信喪失が恐怖を生む

いまのフランスを語るときに引き合いに出されるのが2013年にフランス政治科学研究所(Cevipof)という機関が行った世論調査で、それによると、半数のフランス人が、フランスの経済的・文化的衰退を不可避と考え、フランスで民主主義が機能していると考えた人は3分の1以下だった。6割以上が政治家は腐っていると考える。この報告書によると、フランスはさまざまなグループに分断された「部族社会」のようになっており、政治家には不信感、イスラム教徒には反感を持っており、フランス社会を動かしているのは「恐怖」(fear)であると結論づけている。

そのような状況で政治家が行ったのは、全てのフランス人が共有している(ことになっている)「フランス的なるもの」を再確認するということだった。しかしそれもフランスという国をポジティブに特徴づける思想や価値観を明確化するのではなく、「フランス的でないもの」(alien-ness)に対する反感を掻き立てることでまとまろうとしたようなところがあった。その「フランス的でないもの」でいちばん目に付くのがイスラム教徒だったというわけです。

しかし(ケナン・マリクによると)実際には、フランスで暮らす北アフリカ系の人びとは、圧倒的に「非宗教」(secular)であり、イスラム教を実践している人びとでさえも実際にはかなりリベラルな発想をしている。例えば熱心なイスラム教徒の女性の7割近くがベールをかぶっていないし、自分の娘が非イスラム教徒と結婚することを許さないというイスラム教の親は全体の3分の1以下、81%が離婚時の男女平等という考え方を支持している。44%が男女の同棲に寛容、38%が堕胎の権利を認め、31%が婚前セックスを認めている。唯一、非寛容なのは同性愛で8割近くがこれを認めていない。

つまりこのエッセイの筆者によると、北アフリカ系のフランス人は、それほど極端に保守的とかイスラム的というわけではない。にもかかわらず彼らはフランス社会では人種差別に直面し、社会の片隅に押しやられており、それを是正しようという政策が実施されることがなかった。普通のフランス人は北アフリカ系のことを「アラブ」とか「イスラム」などと呼んでいる。こうした北アフリカ系のコミュニティの中で、二世たちは両親からも、主流のイスラム教からも、広くフランス社会からも疎外されていると感じている。

1月のテロ事件を起こしたクアシ兄弟は北アフリカからの移民の息子たちではあるけれど、熱心なイスラム教徒というわけではなかった。彼らはただフランス社会から除け者にされ(excluded)、差別され(discriminated against)、何よりも馬鹿にされている(humiliated)と感じていた。

彼らはフランス語を話し、フランス的な感覚を持っていると思っている。なのにアラブ人と見なされていた。つまり文化的に混乱した状態に置かれていたということである。

They spoke and felt French, but were regarded as Arabic; they were culturally confused.

英国流の「多文化主義」はお互いの違いを認め尊重しようという姿勢であり、それは悪いことではない。フランス流の「同化主義」は同じ理念のもとで白人も黒人もアラブ人もそれぞれをフランス市民として平等に扱おうというのだからこれも悪いことではない。が、これらの理念を実行に移すと途端に事情が変わってくる。英国では「多文化主義」の名のもとに、さまざまな文化的な背景を持った人々をいくつもの小さな箱に閉じ込めるようなことになってしまい、それぞれが孤立した状態になってしまった。フランスはというと、「共通のアイデンティティ」を確立しようとする中で北アフリカ系の人々を「その他」(the Other)という範疇に除外するようなことをしてしまった。結果として両国ともに分断社会を抱えるようになってしまい、過激イスラム主義が培養される土台を作ってしまった。

英国では2005年7月7日にロンドンのテロ事件が起こっており、52人が死亡、約800人が負傷しているのですが、その主犯格とされて自爆してしまったモハンマド・カーンはパキスタン系の移民の息子だった。1974年生まれだったから自爆死したときは31才だった。またことし1月にパリの出版社を襲ったテロ事件の主犯とされるシェリフ・クアシはアルジェリア系の移民の子供で、1980年生まれだからテロ事件を起こしたときは35才だった。

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2015年12月1日 up date

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