NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

英国のパーセンテージ

リストラの不安はないのに・・・

むささびが勝手に想像する日本人像によると、最も心配するのは職場をリストラされることなのでありますが、そのあたりについての英国人の感覚はどうなっているのか?

現在職に就いている人の中で「将来リストラされるかもしれない」という不安を抱いているのは3割で残りの7割は「近い将来のリストラはない」と考えている。この数字はどのように考えるべきなのか?The Observerは、全体的に雇用が安定している明るい傾向と見ている。また家計の将来についても向こう1年間で「良くなる」という人のほうが「悪くなる」という人よりもはるかに多い。

不思議なのは若い世代(18~24才)の感覚で、将来の家計状況が良くなると考えている人が57%にものぼっている。若年失業率が16.2%と全体の失業率(5.7%)よりもはるかに高い現状と矛盾するように思えるのですが、The Observerはこれ以上悪くなることはないだろうという気持ちの表れかもしれないと言っています。

リストラの心配で悩む人が意外に少ないと思われるのに対して、気になるのは現代の英国人が抱えている精神的不安の問題です。The Observerの記事は “mental health issue” という言葉を使っている。なぜ “mental illness”(精神病)と言わずに “issue”(精神衛生問題)などという持って回ったような言い方をするのか分からないのですが、要するに「うつ病」のような精神不安定状態のことです。

精神的な問題

自分が抱えている:21%

家族・友人が抱えている:28%

精神病とは無関係:47%

分からない:9%

自分もしくは自分の周囲に「精神衛生問題」を抱えた人がいるとする人がほぼ半数にのぼっている。「無関係」より多いのです。この問題は年齢によってはっきり分かれる。The Observerによると若年層(18~24才)では32%がこれを身近に感じているのに対して、55才から上の場合はわずか9%となっている。長い未来が待っている人たちにはそれなりの不安があり、先が見えているような層には人生に対する開き直りや諦め感も強くてその分だけ図々しくなっているということなのでしょうね。
さらに精神衛生問題にも地域差がある。工業都市バーミンガムを中心としたウェストミドランズというエリアと北イングランドがともに30%台でかなり高い。この2つのエリアに共通しているのは、金融のようなサービス産業よりも工業が中心の経済構造になっており、その意味ではかならずしも「時流に乗っている」ような地域ではないということです。

要するに精神的な問題を抱えている人が多いということですが、にもかかわらずそれを「恥ずべきこと」(stigma)と考える風潮が未だに強い、とThe Observerは言っている。平均的には3割の英国人がそのように考える傾向にあるのですが、自分自身がその問題を抱えていると考えている人の場合はこれが5割以上に上るということです。「とくに問題にするようなことではない」とする人はわずか2%にすぎない。

 

左翼には辛い時代?

個人的な生活面ではそこそこ楽観的な数字が多いと思うのですが、個人の生活を超えて政治・社会の領域になると、ちょっと雰囲気が変わってくる。まず自分自身の政治姿勢を問われると、右翼も左翼も同じような数なのですが、「英国の政治状況はどうか?」と問われると「右翼的になっている」と答える人が非常に多い。

 自分の政治姿勢はともかく英国全体として「右寄りになった」とする人の方が「左寄りになった」という人より圧倒的に多いのですね。注目すべきは「中道寄りになった」と感じる人の割合でしょう。この場合の「中道寄り」というのは(むささびの見るところによると)ほとんどの場合「左」だった人が真ん中寄りになったということです。ブレアの労働党の登場(1997年)がその始まりです。実はキャメロンは保守党を左へ寄せて真ん中にしようとしてきたのですが、保守党内の右寄りグループの抵抗にあっている。

 上のグラフにある「差別」のうち「イスラム」は説明の必要がないですよね。人種差別は法的にはないことになっているけれど、昨今の移民反対の風潮がアジア人や黒人への差別意識を生んでいることは間違いない。現に数年前には暴動まで起こっている。性による差別についていうと、女性の国会議員の数は650人中148人だから約22%、日本の衆議院の8%(480人中39人)よりはましというところですね。

微妙なのは「階級差別」です。このグラフだけ見ると、「英国は階級社会だ」と思われるかもしれないけれど、実際に英国人に聞いてみると、自分を “middle class” と定義する人が37%、”lower middle class” という人が20%となる。英国における”middle class”を翻訳すると「経済的に恵まれた人たち」という意味であって、アメリカでいうような「中間層」とは少し違う。半数以上が自分を”middle class”だと思っている社会が、本当に「階級差別社会」と言えるのか?このグラフは文字通りには受け取れない。

ところでThe Observerによると、政治的な姿勢と精神病には関連性があるらしく、左翼的な人の4割以上がこれに罹っているのに対して右翼的な人の場合はわずか2割以下となっている。社会的な差別に対する敏感・鈍感も精神状態に関わっているかもしれない。

英国はヨーロッパではない!?

右傾化する英国にとって、この選挙後の最大の政治イベントは2017年に予定されている、EUへの加盟を続けるべきかどうかについての国民投票です。この国民投票は一昨年(2013年)キャメロン首相が「2015年の選挙で保守党が政権をとれば」という条件付きで約束したものだから、労働党政権が誕生した場合、理論的には国民投票をやらなくても構わない。では英国人自身はこの国民投票を実施すべきだと考えているのか?

英国人の大多数が国民投票を実施することに好意的です。これほどまでに差がついてしまうと、労働党が政権についたときに「国民投票は保守党政権が約束したものだから」と言って実施しないというわけにはいかない。そもそも英国人は自分たちのことをヨーロッパ人であると考えているのでしょうか?

ヨーロッパの言語で使えるものはあるか?

ある:19%

ない:81%

英国人の多くが自分たちをヨーロッパ人であると考えておらずヨーロッパ大陸で使われている言語を使えるのは10人に2人と極めて少数なのですね。自分たちをヨーロッパ人だと思わないのだとしたら、英国人の地球規模での地域感覚はどうなっているのか?ヨーロッパに属していないのなら、どこに属しているというのか?大西洋を隔ててアメリカに属しているということ?こんな状態で2017年の国民投票を迎えたらどうなるのか?

「離脱」の意見がいちばん多いわけですが、「離脱」の46%の内訳は「絶対離脱」という強硬論者が28%で「多分そのほうがいい」(18%)という穏健派を圧倒している。要するにこの調査で見る限りにおいてはかなりの数の英国人がEU離脱を望んでいる。

 

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2015年5月4日 up date

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