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国際問題コラム「世界の鼓動」

「イスラム外交」強化論の背景

「イスラム」を前面に押し出さなかった従来の外交

ところで、この国独立以来の外交史をふりかえってみると、「イスラムを外交資源として活用」することに、政府指導者は慎重な姿勢をとってきた。

その理由はインドネシア国家の自画像にある。インドネシアの国是「パンチャシラ」は第一に「唯一神への信仰」を国家統合の基本原理とする。すなわち、「宗教」はインドネシア統合の重要要素であるが、必ずしも「宗教」をイスラムに特化していない。別の言い方をすればインドネシアは「世俗主義国家」でもなければ、「イスラム国家」でもない「多宗教国家」ということになる。したがって「インドネシアはイスラム国家」という自己認識は、国是に抵触するし、外交資源として「イスラム」を持ち出すと、かえって国家統一を弱体化させるリスクを伴う。

国立イスラム大学ジャカルタ校のアジュマルディ・アズラ前学長の指摘するところ、「インドネシア政府は外交政策において、イスラム要素を強めないよう一貫した姿勢を取り続けてきたように見えるが、イスラム教徒の権益を保護することに真剣に取り組んだ事例も見られる。かくしてインドネシア政府は、その外交政策において、イスラムに対してある種あいまいな姿勢を取っている。」(アジュマルディ・アズラ『インドネシア、イスラムと民主主義』)

こうした「あいまい外交」政策から、イスラム諸国会議機構(OIC)が1969年に設立された際、インドネシアは使節団を派遣するも公式加盟せず、その後も10年以上加盟を見送り続け、国内でイスラム意識が高まった1980年代に入って、やっとメンバー入りしたほどだ。

「イスラム外交」の強化を求める国会の議論は、以前と比べて外交においてイスラムの占める位置が変わってきたことを実感させるが、イスラムを外交資源として積極活用してこなかったこれまでの伝統的な外交政策から、発信に関するノウハウ、技術は蓄積されているとは言い難い。

 

宗教モノ」映画から透けてみえるのは 

さらにインドネシアの「イスラム外交」が発信下手である背景の一つとして、この国の指導者たちが内面奥深くに抱えている二重の劣等感の存在をあげることができるかも知れない。

第一のコンプレックスは西洋に対してである。近代以降、欧米列強の圧倒的な文明力によって、イスラム諸国はかつての輝きを失い、植民地化され屈辱的な支配を受け入れねばならかった。イスラム教徒が大多数を占める植民地の一つとして、インドネシアの独立指導者たちも、「イスラムは近代から取り残された」という焦燥感に苛まれてきた。彼らにとって、日本が近代化のモデルとなったのは、欧米文明に属さない地域でも、近代的な国民国家を建設することができるという希望を見出すことができたからである。

第二のコンプレックスは、中東イスラムに対して、「イスラムの本家本元は中東」という意識が、インドネシア・イスラム界に根強くあることだ。中東イスラムとインドネシアの関係は、中東→インドネシアと一方向的だ。近代以降も、「イスラム改革運動」「汎イスラム主義」といった中東で発生したイスラム思想潮流は、中東から帰国した留学生等を通じてインドネシアに伝わり、この国のイスラム界に大きな影響を与えてきた。その逆の例は多くない。

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2015年2月25日 up date

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