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国際問題コラム「世界の鼓動」

教材としてのBarefoot Gen(はだしのゲン)

この作品に惚れ込んでしまったベッツさんは、『はだしのゲン』を教材として使うことに決め、学校当局に提出する企画書(カリキュラム)を作り始めた。教育的な理由づけはそれほど難しくはなかった。

この作品に描かれているようなことが二度と起こってはならない。そのためには何が起こったのかをあらゆる悲劇的な詳細も含めて知る必要がある。

We never want this to happen again – and therefore we have to know what happened, in all its tragic detail.

というわけですが、ベッツさんが『はだしのゲン』を教材として使うことにためらいを覚えたのは、本の真ん中あたりに出てくる、あるシーンであったと言います。そのシーンとは、平和主義者であるゲンの父親の態度に腹を立てた学校の担当者が、父親の娘(ゲンの妹のことか?)を校長室に呼び出して洋服を脱がせて立たせたうえに侮辱的な言葉を浴びせるというシーンだった。

この場面を読んだとき、教材として使うのはやはり無理かもしれないと深刻に悩んでしまった。生徒の親、学校の運営者たち、さらには学生たちも、このシーンには大いにとまどいを覚えるのではないかと思ったからである。

But when I read this part of the book, I became seriously worried that I would never be able to use the book because parents and administrators, even students, would be so disturbed by it.

その場面だけ飛ばしてしまおうかとも思ったほど深刻に悩んだ挙句にベッツさんが到達した結論は、ストーリー全体からしてこの場面を抜かすことは絶対に出来ないということであり、親や学校当局に分かってもらうように努力するしかないということだった。

ベッツさんのエッセイは、彼女が『はだしのゲン』に感激して教材として使おうと決心するまでを書いており、実際に使ったのかどうか、使ったとして学校当局、親たち、子供たちからの反応はどうだったのかについては書かれていない。ただ彼女が教師としての体験から学んだ教訓のようなものがいくつか書かれています。例えば「教材を使う生徒・学生の年齢層を考慮する」とか「学校当局の許可を得ておくこと」等々がありますが、

Preteach, preteach, preteach!

ということがあった。その教材を使って授業をする以前に、出てくる事柄についての予備知識のようなものをしっかり与えておくことで、”Barefoot Gen”の場合は、「戦争」や「性暴力」のような事柄についての事前のミニレッスンが必要だとしています。

彼女によると”Barefoot Gen”を教材にした授業は、小学校5・6年から大学生まで可能なのだそうですが、授業をするにあたっては、原爆投下についてはいろいろな見方があるということ教えることが肝心だと言います。この漫画だけを読んでいるとどうしても投下に批判的になるけれど、原爆投下によって日本本土への米軍の上陸が避けられ、それによって何百万人もの人が死なずに済んだという見方もあるということを伝えることが重要であるとしています。それによって子供たちのinformed judgments(いろいろと知ったうえで判断する)が可能になるのだから・・・ということです。ベッツさんはさらに授業を通じて子供たちが学校外の世界との繋がりを見つけることも大切だとして、『はだしのゲン』の場合はHiroshima Peace Projectという活動への参加を奨励したとしています。

アナスタシア・ベッツさんによると、”Barefoot Gen”のような「物議をかもしそうな内容」(controversial content)の授業をするにはいろいろと考えなければならないことが多い(a lot to think about)ので、大変ではあり、それを避けたがる教師が多いけれど、「やってみる価値はある」(It’s worth it!)と言っています。

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2013年9月8日 up date

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